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先客(エピローグ)

四月 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」  最後のお客様を見送り、バックヤードでエプロンを畳んでいると店長が声を掛けてきた。 「お疲れ様。どう? 坂下クン」 「店長もお疲れ様です。はい、覚えも早くてこっちが教えられちゃいました」 「姉弟揃って優秀だね。坂下ちゃんのあんな顔、初めてみたよ」 「僕もです。でも、賑やかになって楽しいです」  坂下さんの一つ下の弟君、坂下 瑠璃(さかした るり)君が新しく入り、中村書店は五年目の春を迎えた。  双子かと勘違いするほど顔も趣味も似ていて、彼曰く間違いを防ぐためにピアスにした、と面接の時に言っていた。店長はそれを「面白いね」と受け入れ、やっぱり店長は器が大きい人だと改めて思えた。 (ここに来てもう四年になるのか。早いなあ……) 「今度、歓迎会するんだけど……来れる?」 「はい! 喜んで」  店の名前を聞くと手作りハンバーガーで人気のお店らしい。「坂下クン、来れるといいんだけどね〜」と腕を組んでいた。 「じゃあ、お花とか用意しませんか? ここにある文具を使えば飾り付けも出来ますし、少しは映えますよ!」  「今から手伝いましょうか?」と乗り気で言うと和やかな店長は奥を指した。  どうやら外を指しているようで、暖簾を潜ると外に誰かいた。 「なっ……!!」 「どうやら先客がいたみたいでね。ボクのは明日でもいいから行っておいで」  そう背中を押され、こっちに手を振るあの子に駆け寄った。 「サキさ……サキ君!」 「お疲れ様、日和さん。呼び方はどっちでもいいよ?」 「……まだ考え中なので、場合によって変わります」 「いいよ〜、OK。……日和さん、お仕事頑張って良い子、良い子〜」  ダッフルコートのポケットから手を取ると僕の両頬に押し当て、ぐにぐに回す。とても幸せな気持ちになったが、それよりもサキさんの手が冷えていた。 「も、もしかして待たしちゃった? 寒くない?」  今夜は冷えるとニュースで聞く。マフラーを用意せよ! アナウンサーは伝えていた。 「ううん。日和さんに会えたから寒くないよ」  鼻や耳が赤い。かなり待ったんだろう。僕は手袋を外し、同じようにする。 「ま……待っていて、良い子、良い子〜……です」 (これ、やる側としてはとっても恥ずかしいな……!)  背が足りないからつま先立ちしなくちゃいけないし、小さな手が二つで収まるほど小顔で、お肌すべすべ過ぎる。恥ずかしがるとおでこに柔らかいものが当たった。 「ありがとう。だから、お返し」  キュンキュンしてしまう。反則だ。 「こ、こちらこそありがとうございます」

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