8 / 12

第8話 最悪な約束

酒を飲みながら二本のホラー映画を観終わり。満足した猿山は、ほろ酔い気分で帰っていった。 「はぁ~~……なんとかやり過ごせたぁ……」 カーテンを開けると、外は既に真っ暗になっており。気が付けば時計の針は九時を指していた。 流石にこれだけ熱い中。ずっと狭い空間に隠れていれば、今頃アイツも干からびている事だろう。 もしかすると、今ならアイツに借りを返すことも容易いかもしれない。 「ヒヒッ!いいなぁ~それ。さっきも好き勝手されたんだ。遠慮なくボコボコにしてやるぜ」 青峰の苦しむ姿を想像しながら、俺は足音を立てないよう静かに近づいて、思いっきり布団を引き剥がした。 するとそこには、あまりの熱さと疲労で汗を流しながら倒れ込んでいる青峰の姿があると……そう思っていた。 だが。 ガシッ!! その考えは甘かった。甘すぎた。 「ねぇ米田君。僕相当頑張ったんだから、ご褒美貰ってもいいよね?」 「は、はぁ!??ご褒美はもうやっただろうが!!」 「そんなの……足りないよ」 ずっと縮こまっていた大きな身体が、俺の方へ伸びてきたと思った途端。青峰はそのまま布団を掴んでいた俺の手を取って、唇を強引に奪った。 青峰にしては随分と荒っぽいやり方で、しかも突然だったせいで呆気に取られてしまった俺は、抵抗もしないままあっさりと押し倒されてしまった。 何が起きたか理解した頃には既に、汗ばんだ大きな手が俺の服の中へ侵入し。胸辺りを指先でなぞっていた。 「やめっ!っ!///」 指先が、俺の乳首を掴んでは少し引っ張って、優しくクリクリと撫でまわしてくる。 ピリピリとした痛みと、何とも言えないくすぐったさが、腰から下へビリビリと電気を走らせて、嫌でもゾクゾクしてしまう。 「だめっ、だって……やめっ//」 嫌なはずなのに、身体がもっと求めている。 ここに触れてほしい。ここを舐めてほしい。ここに来てほしい。と。 「米田君、こっち向いて」 「んっ」 どうして俺は、こんな奴にあっさりと従っている? どうして俺は、こんな奴のキスを受け入れている? どうして俺は、こんな奴にドキドキしている? 「気持ちい?」 「ぅっ、うるせっ//」 「素直じゃないね。でもそういう所も好きだよ」 「っ~~……///」 好きだと言われると、胸が締め付けられる。 「もっとキス頂戴」 「はっ、ふっ……んっ//」 キスを求められると、頬が緩んでしまう。 「ぁっ、そこは、やめっろぉお///」 青峰の早い胸の鼓動が聞こえると、嬉しくなってしまう。 これは一体なんだ? 自分が、自分じゃなくなるみたいでーー怖い。 「入れていい?」 「えっ」 怖い。 あの時みたいな、無理矢理入れられる時とは違う。 俺の許可を求めている。 怖い。 「それ、は……」 怖い。 コイツの事嫌いなはずなのに「良い」って言ってしまいそうになる自分が怖い。 俺は、本当の俺は、一体コイツの事どう思っているんだ? 「っ……おれ、は」 俺の気持ちは、一体どっちなんだ? 「その、いや、でも……」 「……ごめんね。意地悪言っちゃった」 「は?」 「ご褒美はこれくらいでいいや」 掴んでいた手を離して、俺から離れていく青峰の姿に胸がチクリと痛んだ。 その表情はいつもと変わらない笑顔なはずなのに、どこか冷たくも感じる。 もしかして俺が「入れていい」って言わなかったから、アイツは傷ついたんだろうか? いやいや!!そんなの良いわけねぇし。俺は何も悪くない。だから気にする必要はねぇ……はずなのに。 「まて」 「米田君?」 あぁ、コイツのせいで俺まで頭がイカレてきてやがる。 「言っただろ。テメェの事教えろって……。じゃねぇと、素性も知らねぇテメェみてぇな変態野郎に入られたいなんて思うかよ……馬鹿が」 「米田君」 「っ……だ、だから。今度、どこか連れていけ//」 「そ、それってまさか。でっ」 「デートじゃねぇ!!///自惚れんな!!クソがっ!!」 いや、これはどう考えてもデートだ。 分かっていながらも、自分から誘ったこともあってか認めたくない。 「有難う米田君。絶対行く。そして僕を知ってもらうからね」 「っ!わ、分かったから離れろ!!いちいち近いんだよテメェは!!」 あまりの喜びに俺の両手を取って目を輝かせてくる青峰の顔を見てると、どんどん冷静さが戻ってくる。 やっぱり、誘うんじゃなかった。

ともだちにシェアしよう!