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第9話 最悪な感情

墓穴を掘る。という言葉の意味がようやく分かった気がした。 「【明日の十二時。駅前の噴水広場前で待ち合わせで大丈夫?】」 絵文字も何もない。丁寧な言葉の文章がスマホの画面に表記される。 送ってきた相手は、友人でも恋人でもない。寧ろいつかボコボコにしてやりたいくらい恨んでいる無駄に美形なクソ男。 それなのに俺は、そんな男と明日デートすることになっている。 「……何やってんだ。俺は」 とりあえず「あぁ」とワザと素っ気ない文章を送り付けると、二秒後に「好きだよ」という返事が返って来て、俺はそのままスマホをベットへ投げ捨てた。 「青峰……景」 どうしてアイツは、こんな俺を好きなのだろうか? 自分で言うのもなんだが、顔は厳ついし。性格もなかなかのクズ野郎だっていうのに。 アイツはこんな俺を抱いて……。 「って!!あぁあ!!///何を思い出してんだ俺はぁあ!!///」 人生で一番最悪な出来事をつい思い出しそうになり。俺は慌てて首を振って消す。 というか、今更なのだが。 明日またアイツと会って、俺のケツは無事なのだろうか? もしかすると、人気の無い場所に連れていかれたりとか。下手すると、ラブホに無理矢理連れ込まれるってことも……。 「い、いやいや。流石にそこまでは……」 いや、十分有り得る。 というか、あの時だってほぼ強姦だったわけだし。 「と、とりあえず。明日の服選ぶか……」 グチャグチャになっていた洗濯物の中から、自分のお気に入りの服を取り出して、どれがいいか厳選していると、突然スマホから着信が鳴り響いた。 「なんだ?青峰からか?」 面倒だと思いながらも渋々五回目のコールで電話を取ると、聞こえてきた声は一番慣れしたんだ友人である猿山だった。 「お前電話取るの遅いつうの!」 「うるせぇなぁ~。テメェは俺の彼女か」 「あはは!お前もし相手が彼女だったとしても、電話取るのめんどくせぇって思うだろ!」 「おぉ。よくわかってんな」 「何年の付き合いだと思ってんだよ!お前の考えてる事くらいお見通しだっつうの」 なんて、くだらない何でもない会話でも俺達は笑い合う。 短気で馬鹿な猿山だが、俺にとっては一緒に居て一番居心地がいい相手だ。 だからこそ猿山には絶対青峰の事バレねぇようにしねぇと。 「なぁ竜二。明日暇だろ?俺バイト休みだからさ~どっか行こうぜ」 「え、あ、明日?」 「なんだ?なんかあるのか?」 「あ、あぁ~~……」 明日は青峰とのデートの予定が入っている。 けど、それは猿山と会うよりも大事なこと……なのか? 俺は青峰が嫌いなはずだ。 俺のナンパを邪魔した挙句。無理矢理俺を犯して、不法侵入までしてきて、好きだのなんだのほざいてきやがって……。 けれど。もし俺がこのままアイツとの約束を蹴ったら、アイツは多分相当落ち込むだろうな……。 いや、それでいいはずだ! 俺はアイツを傷つけたい。力で負けるなら精神面を崩せばいいんだ! なら、そのままアイツのと約束をすっぽかせばいい。そんで猿山と一緒にアイツの惨めな姿を拝んでやる。 「我ながらいい考えじゃねぇか!」 それなのにーー。 どうして俺はこんなにも悩んでいる。 「お~い。竜二?」 「分かった」と、一言口にすればいいだけのはずなのに。 俺の心はもやもやとしたままで、どうしても猿山の誘いに答えることが出来なかった。 「わりぃ猿山。明日は用事があるんだ。また別の日にでも誘ってくれ」 「珍しいな!なんだ?女か?」 「……まぁ、そんなところだ」 相手は男だけど。 「しかたねぇな~。分かった、じゃあまたな」 「あぁ……またな」 いつもより静かに終わった猿山との電話に、よくわからないぐちゃぐちゃで気持ち悪い感情が胸に残る。 「こんなの、初めてだ……」 ーーじゃあ断らなければよかったじゃないか。 「けど」 アイツの顔を思い出すと、俺は猿山の誘いに乗ることが出来なかった。 「クソッ。マジで俺どうしちまったんだ」 とりあえず、ぐるぐるもやもやする気持ちを早くどうにかしたくて、俺はそのまま瞼を閉じて眠りについた。

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