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第11話 最悪な終わり
「竜二お前。こんなところで何してんだよ」
冷たい声と冷たい眼差しが、俺の背中を凍り付かせる。
見られてしまった。
俺達をボコボコにした恨むべき相手、青峰景と一緒に居るところを……。
しかも俺は、猿山に嘘をついてまでコイツと会っている。
これじゃあなんの言い訳も出来ない。
「なぁ……なんで何も言わねぇんだよ竜二」
「……すまねぇ」
「俺は!なんでコイツと一緒に居るんだって聞いてんだよ!!」
胸倉を掴み上げ、俺を凝視したまま青峰を指さす猿山。
確かに……。
どうして俺は、コイツと一緒にいるんだろうな。
最初は、ただ単に青峰に付きまとわれていた。
けど、今日は違う。
今日会っているのは、俺から言い出したことだ。
じゃあなんで俺は、嫌いなはずのコイツと会って良いなんて思ったんだ。
「……そんなの、俺が一番知りてぇよ」
「は?なんだよそれ」
「待って!違うんだ!僕が米田君を脅して……」
「お前は黙ってろ。青峰」
「でも!」
俺を助けようとしてくれているのだろう。
青峰は俺と猿山の間に割って入ろうとするが、無言で睨みつけ。動くなと悟らせた。
だってこれは俺の問題だ。
こんな俺とツルんでくれていた猿山達を裏切ったのは、俺自身だ。
けど……。
「……猿山。俺は今でも、お前をダチだと思っている」
俺から離れないでほしい。
嫌われ者の俺には、猿山達以外信用出来る奴なんていないから。
「俺はお前や犬山達といると、他の奴等の目なんて気にならないんだ。自然でいられるんだ……だから!」
「そんなの、もう俺達とじゃなくてもいいだろ」
俺を掴んでいた猿山の手がゆっくりと離れて、俺は力が抜けるように再び座り込んだ。
「俺達とじゃなくてもいい」そう言った時の猿山は、もう完全に他人を見る目だった。
俺は、突き放されたんだ。
「竜二。なんでお前がこの男と一緒にいるかは知らねぇ。もしかすると借りが出来たからとか、もしくは弱みを握られたからとか、色々理由はあるかもしれねぇが……。俺はそれでも、ダチを殴ったこの男を許すことは出来ねぇ」
知っている。
猿山はそういう奴だ。
短気で暴力的だが、仲間思いで。理由もなく殴る事はしない良い奴だ。
実際に今も俺を殴ろうとはしてこない。相当ムカついてるはずなのに。
「猿山……もう、ダメなのか?戻れないのか……?」
こんな、こんなあっさりと俺は。終わりたくねぇ。
ずっとツルんできて、馬鹿やって、笑って、ようやく出来た居場所なのに。
「猿山……行かないでくれ」
涙ぐむ俺を、猿山は見下ろしたまま動かない。
きっとこのまま上を向けば、猿山の答えは言葉にしなくても分かってしまうだろう。
けど、怖くて顔を上げれない。
だから俺は、猿山の言葉を待った。
「……竜二」
俺の名前をポツリと漏らす猿山の声は、俺なんかよりも悲しそうで、辛そうでーー
「俺は、お前に嘘を吐かれたのが。何より許せねぇんだよ」
まるで、誰も信用しない俺の様だと思った。
「じゃあな」
「猿山!!」
顔を上げた時にはもう、猿山は背中を向けて俺の目の前から立ち去っていた。
「……米田君」
人の言葉がどれだけ相手を傷つけるかなんて、俺が一番知っていたはずなのに。
「米田君!」
どうして俺は、嘘なんて吐いちまったんだ。
どうして青峰とのことを隠していたんだ。
いや、そもそも俺はどうしてーー青峰なんかと。
「お前さえいなければ」
「……米田君」
「お前が……俺なんかを構うからこうなっちまったんだ」
違う。
そんなこと言いたいわけじゃ。
「なぁ。なんで俺なんかに付きまとうんだよテメェは。お前は女を助けるために俺を殴ったんだろ?お前にとっちゃ俺なんてただの害。悪でしかないはずだろ?」
「違うよ。君はそんな悪いやつじゃない」
「テメェが俺の何を知ってやがんだっ!!俺だって、お前の事何にも知らねぇつうのによ!!」
止めろ。これ以上口にするな。
「僕は……知ってるよ。君の事」
「……は?んだよそれ」
頭が真っ白になっていく。
怒りが、焦りが、悲しみが、俺の口を塞いでくれない。
「はっ成程。どうもうさんくせぇと思ってたが。テメェ、俺をどうする気だ?俺の事よく知ってんだろ?俺に付きまとって、どうハメる気だったんだ?」
「え……?」
「俺に恨みを持ってる奴なんて山ほどいるんだよ。どうしようもないロクでなしだからなぁ~俺は」
「違う!僕は恨みなんて!」
「黙れ。俺はもう誰も信じない」
耳を塞いで、目を閉じた。
もう俺を見るな、俺に話しかけるな、俺に関わるな。
今は誰も信じられない。信じたくない。
こんなんだから、誰にも信じてもらえないと分かっているのに。
俺は八つ当たりのように青峰を拒否した。
「俺は、お前が嫌いだ」
最後にそう呟いて、俺はゆっくりと顔を上げる。
酷いことを言って、アイツを突き放したのは俺自身のはずなのに。いなくなってしまっていた隣を見て、俺の心は酷く哀しんでしまっていた。
「……ははっ。なにやってんだ……俺は」
こうして俺は、また全てを失った。
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