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第4話 最低で勝手な奴
「……ケツが……いてぇ」
同じ部屋で、二度目の目覚め。
今度は、茜色の夕日が眩しいくらいに差し込んでいた。
「俺……なにしてたっけ?」
汗でベトベトになった身体に、緩くなったケツ。そしてゴミ箱には使用済みのコンドームと丸めたテッシュが捨てられている。
「そうだった……俺、あの爽やか野郎に……」
不意に脳裏に浮かんだのは、アンアン喘ぎながら気持ちよさそうに男に縋り付く自分の姿。そしてそんな俺を、獣のような目で見つめる青峰の熱い視線。
「ッーー!!////ダァァアァ!!クソッ!!マジありえねぇだろ!!俺のバカ、大バカ野郎がッ!!///」
青峰に抱かれたことを思い出して、不覚にもドキドキしている自分に腹が立った。
というかアレはほぼ強姦だし、なによりアイツは俺をボコボコにしやがった野郎だ。借りは返さねぇといけねぇはずだったのに……。
「……ア?そういえばあの野郎がいねぇな」
朝目が覚めた時は、ずっと待ってましたとでも言うように紅茶まで用意していた奴だったのに。今は俺が目覚めても、物音すらしない。
しかもよく見れば、俺が寝ている部屋以外は電気も消されている。多分出かけているのだろう。
「チッ。胸糞わりぃが、今のうちに逃げるしかねぇな。またアイツに抱かれるとかありえねぇし」
本当はシャワーでも浴びたい気分だったが、いつ戻ってくるのか分からない状況だった為。俺は仕方なくベットの横に綺麗に畳んで置かれてあった昨日の服に着替え、テーブルの上にある自分の腕時計をポケットに入れた。
後は部屋の鍵と携帯を持てばすぐに立ち去れる。なんて思ってた矢先、テーブルの上のメモ書きが俺の足を止めた。
「<米田君へ。君の鍵と携帯は人質として僕が預かってます。返してほしければ、桜木美術大学まで来てください。PS、お礼ありがとう。とても美味しかったです!>」
「美味しかったですじゃねぇえ!!!!」
顔と同様で綺麗な文字で書かれた最低なメモ書きは、その後丸めてイカ臭いゴミ箱の中へと突っ込んでやった。
*
「俺は一体、なにしてんだ……」
青峰を探しに、桜木美術大学へと足を運んだ俺だったが……。
明らかにここは、俺みたいな奴が来る場所じゃなかった。
桜木美術大学。どこかで聞いたことのある大学とは思っていたが、結構歴史が長い有名な美大で、多くのデザイナーやクリエーターを輩出している所だ。
だからなかなか受かる奴はいないって聞くが……そんな場所に通っている青峰って野郎は、一体何者なんだ。
いや、今はあんな野郎のことよりも。
こんな場所にいる俺のアウェー感がやべぇ。
「ねぇねぇ……あの人」
「え?なに、ヤクザ?」
「どうする?先生呼ぶ?」
「いやぁ、下手に関わると危ないって……」
コソコソと飛び交う不愉快な言葉が、俺の胸に突き刺さる。
確かに見た目は派手だし、顔も厳ついかもしれない。
だが俺は人探しに来ただけだ。それなのに、どうしてそんな目で見らねぇといけねぇんだ。
「チッ。不愉快で仕方ねぇ」
でも。
あの青峰という男だけは、俺をアイツ等と同じ目で見なかったな。
まるで、欲しい物を手に入れた子供のようなキラキラした目で……。んで、夜は獣みたいな……。
「クソッ//なんで思い出してんだ俺は……」
ふわふわと思い出される昨日の出来事を振り払うように、俺はバリバリと頭を掻きむしる。
「チッ。それにしても全然見つからねぇ……」
これだけの人数がいれば見つからないのも当たり前だと分かってはいるが、さっさと鍵と携帯を手に入れて、この場から立ち去りたいという気持ちの方が大きく。自然とイライラが募っていく。
「はぁ……こうなったら、そこら辺の奴等脅して聞き出すか」
あんだけのイケメンなら、アイツを知ってる奴くらいいるだろう。
そう思い、振り返った瞬間だった。
「誰を脅すんだい?」
「どわァア!?」
いつの間にか俺の真後ろに立っていた青峰は、いつものキラキラフェイスで驚く俺をジッと見つめた。
鬱陶しいほど存在感強いくせに、気配が全然ないコイツの奇妙さには少しばかり恐怖を覚える。
「アハハ!驚きすぎ」
「ッ……テメェ……///」
そういえば、不覚にも情けない声を上げてしまった。
周りには、他にも人がいるっていうのに。
「ごめんごめん!でも……会いに来てくれて嬉しいよ。米田君」
まるで壊れ物でも扱うように俺の手を取り、青峰は親指で優しく手の甲を撫でた。
近くで囁かれた甘い声と、肌を撫でる熱い指先が、一瞬俺の身体をゾクッ震わせるが。昨日の事を思い出し、俺は手を振り払う。
「会いたくて来たんじゃねぇんだよ。さっさと鍵と携帯返せ」
その時の青峰の顔は少し沈んだようにも見えたが。すぐさま笑顔に戻って、俺の腕を掴んだ。
「まだダメ。君に見せたいものがあるんだ」
「ハァ?ふざけんな!いいからさっさとって!オイッ!!」
俺の言葉を完全に無視して、青峰はそのまま俺を腕を引っ張った。
もしかしたらコイツは、俺よりも勝手でわがままな人間かもしれねぇと。走りながら俺は小さく溜息を漏らした。
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