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第6話 最悪な告白
中学の頃、顔が怖いと理由で友達に避けられた。
高校の頃、不良だと言われ大人に見放された。
どいつもこいつも、顔だけで全てを判断しやがる。
何かしたわけでもねぇのに、迷惑かけた覚えもねぇのに。
どいつもこいつも、俺を狂犬扱いだ。
ならテメェ等の要望通り不良になってやろうじゃねぇか。
ダチなんていらねぇ、信用なんていらねぇ、誰にも認めてもらえなくていい、一人で勝手に生きていく。
だからもうーー誰も俺を見るな。
「米田君」
うるせぇ……俺を呼ぶな。
「米田君の、処女が欲しい」
は?何言って……。
「気持ちいい?米田君」
そんなわけない。
この俺が、尻で気持ち良くなるなんて有り得ない。
なのに、なのにーー。
「可愛い、可愛いよ……米田君」
なんでこんなに、欲しくなってーー。
「なんだ。米田君も案外……欲しがりなんだね」
「そんなわけねぇだろぉお!!!!」
「うるせぇえ!!」
バコッ!!と、何かが頭に激突した衝撃で目が覚めた。
気が付くと、窓辺から朝日がチカチカと眩しく差し込んでいる。
「いてぇ……」
寝起きの重たい身体をゆっくり起こし、さっきぶつけられたであろう床に転がった目覚まし時計を拾って、針を確認すると、朝の八時を指していた。
「まだ八時……」
いつもなら自分の部屋で、まだゆっくりと寝ているはずだったのに。それもこれも全部あの変態野郎のせいだ。
「クソッ。思い出したくもねぇつうのに……最悪」
結局あのキスの後、逃げるようにあそこから立ち去った俺は、アイツから携帯も家の鍵も取り返せなかった。
誰とも連絡が出来ず、しかも家の鍵も無い俺は、一番都合がいい犬山の家で今は寝泊まりさせてもらっている。
それなら今度はアイツの好き勝手される前に、さっさと奪い返しに行けばいいだけ……なはずなのに、どうしても足が進まない。
またアイツにナニかされるんじゃないかという怖さと、あの時泣き顔を見られてしまった恥ずかしさが、俺を引き留めてしまう。
全く、こんなの俺らしくもねぇ。
泣き顔を見られたからなんだ?また変な事されそうになったら、ボコボコに殴ればいいだけの話じゃねぇか。
それともなんだ?
俺は意外とアイツの事……。
「いや、それは絶対ありえねぇ!!」
「だからうるせぇつってんだろぉ!!」
「あぁ!?テメェこそいつまで寝てやがんだ!!さっさと起きろや!!」
「えぇ……逆切れかよ」
駄目だ。アイツの事考える度、自分がおかしくなっていく。
だいたいあいつ自身が変なんだ。
俺を見ても怯えねぇどころか、処女が欲しいとか言ってきやがるし。
俺の顔を見た時のアイツなんか、まるで尻尾振りながら主人の帰りを待ってる犬みてぇだし。
嘘とか、裏があるわけでもなく。まるで本当に俺が好きとでも言いたげな目で……。
というかそもそも、アイツは俺の事が好きなんだろうか?
出会ってまだたった二日。いや、抱かれた日の事考えると、たった数時間しか会っていない俺を?
しかも出会いは最悪で、喧嘩までした相手だっつうのに。
「はぁ……」
駄目だ。
やっぱりアイツには会わない方がいい。
鍵は管理人に言って開けてもらうとして、携帯は解約して新しいのを買おう。
んで、アイツが俺を諦めるまで家に引きこもっていればいい。
「ふぁ~~……。ま、そうと決まれば……明日からでいいか」
解決策が見つかって安心したのか、睡魔がまた俺を襲い。そのままもう一度布団を被る。
今日はとりあえず寝よう。明日からすればいい話だ。
そう思って、瞼を閉じたあの時の俺はーー本当に馬鹿だった。
初対面の俺を犯したあのおかしな野郎が、その程度で諦めるわけがないし。俺の考えくらい読めていないはずがないと、すぐに気づいていればーー。
「こんなことには、ならなかったはずだったんだぁ……」
「どうしたの米田君?そんなまるで絶望したみたいに項垂れて」
「どうして?どうしてかって?」
そんなの決まっている。
「テメェが俺の家に不法侵入してるからだろうがぁあ!!」
「あ、お邪魔してまーす!」
「おせぇし!勝手にお邪魔してんじゃねぇ!マジで邪魔だ!」
「えぇ~酷いなぁ?僕達はもう、友達以上の関係じゃないか」
「なわけねぇだろ。俺達の関係を言葉にするなら『被害者』と『加害者』だ!」
「それにしても煙草臭い部屋だね。吸い過ぎは良くないよ?」
「聞けや!!」
俺の体力と精神力が削れる中、青峰はニコニコと嬉しそうな顔で、俺の布団の上をゴロゴロと、干したての布団の上ではしゃぐ餓鬼みてぇに転がっている。
そうだ。どんだけ俺が家に閉じこもっていようと、俺の部屋の鍵を持っているコイツには何の関係もない話だった。
いやでも、まさか不法侵入までしてくるとは思わねぇだろ。普通。
純粋なのは顔だけで、中身は異常だなコイツ。
「んで?なにしに来やがった」
「え?君に会いに来ただけだけど?」
「いや、だから。なんで俺に会いに来たんだよ!」
「会いたかったから」
「っ……」
青峰景の言葉に、思わず口を噤んでしまった。
たったさっきまで、話も聞かねぇ餓鬼みたいな野郎だったのに、急に真剣な眼で俺を見てきやがる。
「俺に会いたかったから?はっ!ありえねぇだろ」
こんなクズで、目付きも悪くて、口も悪い俺に会いたい奴なんて、俺と同じ同族の野郎か。ケツの緩い女くらいだろ。
それなのに、どうしてコイツは。
「なんで、俺に会いたいとか……言うんだよ」
「好きだから」
まるで当然と言いたげに伝えられた告白が、今までどんな女に言われたものよりも胸に響いて、熱くさせる。
「好きだよ。米田君」
止めろ。
そんな甘い声で囁くな。熱い視線で俺を見るな。俺を求めようとするな。
俺まで、変な気分になっちまう。
俺は、お前の事なんにも知らねぇつうのに。
「……じゃあ、教えろ」
「え?」
「お前の事教えろって、言ってんだ!」
どんだけ青峰が俺の事を好きだと言っても、俺がコイツの事知らねぇ限り、信用も出来ねぇし。俺も好きになんかなりたくねぇ。いや、絶対ならないけど。
でも、コイツがなんでこんな俺を好きになったのか知りたい。
どんな男で、何を考えているのか知りたい。
俺にも知る権利くらいあっていいはずだ。
そんで。コイツの全部を知ったうえで、盛大にフッてやる。
「米田君……ついに僕の事」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃねぇよ」
「でも、少しは僕に興味持ってくれたって事だよね?それだけでも十分嬉しいよ」
「っ……ちげぇし。勝手に勘違いしてんじゃねぇ」
ホント、いちいちコイツの言葉は心臓に悪い。
キュッって、臓器を掴まれた気分だ。
「あれ?なんか携帯鳴ってる。あ、これ。米田君の方か」
何気なくポケットから俺の携帯を取り出した青峰。
どうやら電話がかかってきたらしい。
「って、そうだった!オイ返せ!!」
なんか変な空気のせいで忘れていたが、そういえば俺、コイツに大事な物二つも人質にされてたんだった。
「もしもし」
気が緩んでいたのか、あっさりと青峰の手から携帯を奪い返すことに成功した俺は、すぐさま電話に出た。
すると聞こえてきたのは「よぉ~、生きてっか?」なんて、どうでもいい気だるい挨拶。
これは『猿山』だ。
「なんだお前か。何の用だよ」
「<うわっ、いきなり冷たいな。なんだ?今日は機嫌が悪い日か?生理か?>」
「もう二度と奢らねぇぞ?」
「<悪かった>」
ゲンキンな奴め。
「んで?何の用だよ」
「<あぁ、実はさ。今お前ん家の近くいるんだけど、そのまま来ていいよな?>」
「…………え」
「<今日大物が釣れてよ。さばいてやるからさ!>」
「え、あ、ま、」
「米田君?どうしたの?」
「<あ?なんだ?誰かいるのか?>」
「い、いやいやいや!いるわけねぇだろ!?一人でゴロゴロしてたわ!」
「<なら上がらしてもらうぞ?もう着くから>」
「え、あ……あぁ……」
マズい。これは非常にマズいぞ。
俺達を痛めに合わせた野郎と一緒にいるなんて事が猿山にバレたら、多分俺は見捨てられる。
それに、あの猿山なら絶対手を出して来るはずだ。
今でもここの管理人に目を付けられているうえに、こんな狭い場所で喧嘩でも始まったら、確実に俺は追いだされてしまう。
今からコイツを帰したとしてももう遅いだろうし。こんな散らかっている部屋で、隠れれそうな場所もーー。
いや、一つだけあった。
「オイ!」
「ん?どうしたの?」
「今から俺の言う通りにしろ。そしたら……ご褒美、くれてやる」
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