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第14話

 日曜日、ベスト4に残った自分を含めた四人が揃った。文英のテニス部の数名が応援に来ていてが、その中に幸生の姿はなかった。  準決勝は6-4 6-2で問題なくストレートで勝利。決勝の相手は、県ジュニアNo. 1である久保田海斗。過去の対戦成績は0勝5敗。中学の時から一度も勝てた事がない相手とは、この久保田海斗だった。全てのプレイにブレがなく弱点という弱点はない。そして、左利きだった。  試合が始まると、今まで苦手にしていた左利きのサーブが苦にならない。  (幸生との練習のおかげだな)  相手もいつもと違う太雅に少し戸惑っているように見えた。  そして、第一セットは太雅が6-4で先取した。久保田相手にセットを奪ったのも始めてだった。  (いける! いけるぞ! )  そう確信した。だが、相手も県ジュニアNo. 1だ。そう簡単にいくはずもない。第1セットはストロークの打ち合いだったが、第2セットは積極的に前に詰めてきている。相手は自分より多く引き出しを持っているのは、やはり強みだと感じた。2セット目はタイブレークの末落としてしまった。最終セットもお互いにサービスキープが続き、2セット目と同じくタイブレークへともつれ込んだ。太雅の足は限界に近かった。だが、それは相手も同じだろう。  6-6のチェンジコートを終え、相手のサーブから激しいラリー戦が続いた。果敢に前に出ていた久保田も、終始ストローク戦に持ち込んだようだった。  その時、久保田がフォアの構えからグリップチェンジをしたのが目に入った。  (ドロップ! ) ドロップショットは、上手くボールの勢いを殺し、ネット際にボールを落とす技で、綺麗に決まってしまえば、それに触る事は至難の技だ。  太雅がそれに気付き、一歩前に出た瞬間、左脹脛に激痛が走った。  (つ、攣った……)  ボールを追うことはできなかった。  タイブレーク6-7で相手のマッチポイント。  自分の目を疑った。まさかと思った。久保田は立て続けにドロップショットを放ったのだ。ネットを掠め、そのボールはポスリと太雅側のコートに力なく落ちた。痙攣した足では追う事すらできなかった。 「ゲームセット! ウォンバイ久保田!」  虚しくチアンパイアの声がコートに響いた。  とっさに浮かんだのは、   ――幸生の側にもういれない――  その言葉だった。  負けた悔しさより、幸生を諦めなければいけない悲しのが上回った。 お互い足は引きずりながらコート中央に向かい合った。久保田もどうやら足にきていたようだ。  握手を交わすとコートを後にした。  チームメイトから、お疲れ、惜しかったな、と声を掛けられるが、頭に入ってくる事はなかった。  着替える為、ロッカールームに足を踏み入れる。荷物をベンチに放り投げ、力なく腰を下ろした。 こんな事で幸生を諦められる程、幸生への気持ちは軽い物ではない。簡単に諦められるのなら、最初から同性である幸生を好きになったりはしない。 こんなにも大きくなってしまった想いの行き場は これからどうして行けばいいのか、太雅の頭では到底思いつく事はなかった。 誰もいないロッカールームで太雅はタオルを頭から被り、静かに泣いた。

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