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第14話

そんなこんなで日々は流れ。ある日の消化器外科病棟、ナースステーション休憩室。 「ねぇ~、何か最近ダメ岡、ちょっと変わったよね~?」 「あっ、あたしも感じた!なんていうか…少しとっつきやすくなった?ていうか、微妙だけど、明るくなった?みたいな」 夕方過ぎの休憩時間に、看護師たちが軽食を取りながら雑談に興じていた。 「わかるわかる。なんていうかさ、顔、あまり下向かなくなったよね」 「あ~、それかな。なんか、前ほど話しが聞き取りにくくないっていうか」 わいわいと、珍しく山岡への好意的な話題が場を包んでいる。 「あれじゃん?ほらやっぱり、日下部先生の指導とやらのお陰なんじゃない」 「あ~っ、そうだよね!日下部先生、本当すごいな~。あのダメ岡、本当にまともにしちゃうんじゃない?」 「や~、ますます惚れる!どんなことでもこなしちゃうんだね!格好いいなぁ」 最終的には日下部お熱モードか。 結局行きつく外科医たちに対する噂話に、今日も変わらず花が咲いていた。 「あれ?誰もいない?」 ふと、ナースステーションに顔を出した山岡が、姿の見えない看護師たちに首を傾げていた。 奥の休憩室に引っ込んでいる看護師たちは、そちらからナースコールは聞こえるものの、ナースステーション側からは姿が見えないのだ。 「まぁいいや…」 必要なカルテを勝手に取り出し、処置内容を確認していた山岡の元に、日下部が帰り仕度を済ませてやってきた。 「山岡先生~、上がれる?帰ろ」 「あ、日下部先生。はい、大丈夫です」 「ん?どうしたの、それ」 「あぁ、明日のオーダーの確認だけ」 「クスクス。珍しく入念なチェックだね」 山岡が開いていたカルテを覗き込んで笑った日下部に、山岡が恥ずかしそうに俯いた。 「だってミスや落としがあって明日呼びだされたら、怒るって…」 チラリと無意識に上目遣いで見上げてくる山岡に、日下部が一瞬言葉を失う。 「っ…あ、あぁそうだね。なんて言っても明日は山岡先生と初デートだからな~」 「でっ…って、ちょっと、誤解を招くような言い方しないでくださいっ。ただ、一緒に買い物に行って下さるだけですよね?」 ワタワタと挙動不審になる山岡を、日下部はおかしそうに見下ろす。 「ま、そうだけど。せっかくお互いオフなんだしね。楽しみだな~」 「も、もう終わったので!か、帰りましょうっ」 バタバタとカルテを戻し、席を立つ山岡にクスクス笑う日下部の声が響く。 山岡は気付いていないが、奥の休憩室でこちらの会話を窺っている看護師たちに日下部は気付いている。 その上でわざとらしい言い回しをしているのだ。 「日下部先生?」 「ん?いや、じゃぁ帰ろうか。今夜は飲めるな」 当直、オンコールともになしの夜に、明日は2人揃っての完全オフ。 黄金シフトの週末は、日下部裏工作のお陰なのだが、やっぱり山岡は気付きもしない。 偶然もあることだな~と呑気にしている山岡の肩を組み、日下部はナースステーションを後にした。 そうして2人が去った後のナースステーション。 「きゃぁぁぁっ!あれなに?なにあれ、なにあれっ?!」 「なんなの~っ?!あの2人、あんなに仲がいいわけ?っていうか、なんでダメ岡と日下部先生っ?!」 「2人でお出掛け?っていうか、一緒に帰るとか。今夜飲めるって、食事も一緒?なになになんで~っ!」 悲痛な叫びと大混乱の喚き声が響き渡る。 「ど、同僚でしょ。ただの。ほら、指導とかでちょっと仲良くなっただけで…」 「そうだよ、そうだよ。でも、さ…明日…」 「あっ、そうだよ!じゃ、邪魔しちゃう?なんか、ダメ岡理由つけてコールしちゃうとか…」 こっそりと悪い提案を始める看護師たちに、けれどもふと、多少日下部を知る1人が思い留まる。 「だめ、だよ…。多分、日下部先生、それでわざと話聞かせたんだって」 「え?」 「明日は何があっても呼び出すな~って無言の圧力だってば、あれ」 「そ、そうなの…?」 「もし呼び出しかけたら、やった人、睨まれるって、絶対」 「あぁぁ、そんなぁ。日下部先生、どうしちゃったのよ~」 「嫌すぎる。ダメ岡なんて、絶対認めないっ!」 もう大パニックのナースステーション内は、どうにも収拾がつきそうになかった。

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