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第22話
翌朝、山岡より先に目覚めた日下部は、隣で眠る山岡の寝顔を堪能していた。
「本当、綺麗な顔…」
自分の容姿は棚上げして、髪が分かれて晒されている山岡の美貌に見とれる。
その視線は、やっぱり蕩けそうなほど柔らかい。
「ん…」
スゥスゥと安心しきった寝息を立てる山岡を満足いくまで眺めて、起きる気配がないことに苦笑しながら、ゆっくりとベッドを抜け出した。
「シャワー浴びて、朝食でも作っておいてやるか」
全裸のまま、寝室を出てリビングを横切る。
真っ直ぐに浴室に向かった日下部は、にやけてしまう顔を自覚していた。
そうして、日下部が身支度を整え、ご機嫌な鼻歌混じりに朝食を完成させた頃、寝室からドタドタする物音が聞こえてきた。
「起きたか?」
人の動く気配を感じ、日下部はゆっくりと寝室のドアに視線を向けた。
そっとドアノブが動くのが見える。
そろそろと開いたドアの向こうから、こっそり覗くように山岡の顔が現れた。
「おはよう」
ニコリと微笑みを向けた日下部。
山岡の目がギョッとなって、ビクリと飛び上がったのがわかる。
「どうした?」
「あ、あの…えと…」
モジモジとドアの向こうに隠れるようにして日下部の方を窺っている山岡に、日下部は苦笑しながら首を傾げた。
「何してるんだ?出て来いよ」
ゆっくりと寝室のドアのほうに歩きだしながら、日下部が笑った。
山岡は何故かオドオドと視線を彷徨わせ、困惑している。
「あ、あの、その…っ」
「なに?」
一向にドアの陰から出て来ない山岡に痺れを切らした日下部は、大股でそこまでたどり着き、グイッと強引にドアを開けてしまった。
「あっ…」
ピクンと肩を揺らした山岡が、ストンと俯いてしまう。
その体は、何故かシーツにぐるぐると巻きつかれていた。
「ぷっ…」
その姿が可愛くて可笑しくて、日下部は思わず笑い声を上げてしまった。
山岡が、いたたまれなさそうにウルウルと目を潤ませる。
「もう、想定外すぎ」
「っ…だ、だって、服が…」
なくて、と涙目になる山岡に、日下部はクスクス笑いながら頷いた。
「洗濯しちゃったからな。それにしたって、シーツぐるぐる巻きとか…」
女子かよ!と笑いたくなるのを押さえて、日下部はポンポンと宥めるように山岡の頭を撫でた。
「っ!」
ピクンと肩を揺らした山岡の顔が、少しだけ柔らかくなる。
警戒心を解いてくれたらしい山岡を見て、日下部はそっと道を譲った。
「ほら、シャワー浴びておいで。あの後一応身体は拭いたけど、もっとちゃんとサッパリしたいだろ?」
「っ…」
「身体、辛くない?痛いところとかない?」
無理はさせていないし、傷もなかったが、初めて人を受け入れただろう山岡の負担は相当だっただろう。
窺うように山岡を見る日下部に、山岡はカァッと顔を真っ赤にして、ブンブンと首を振った。
「だ、大丈夫ですっ。シャワー借りますっ!」
パッと走りだしてしまった山岡が、2歩ほど行ったところで、ヨロッとふらついた。
「おい」
「だ、だいじょうぶ、です…」
まぁ、腰とかあそことか、鈍痛は残っているんだろう。
途端にソロソロと忍び足のように歩幅を変えた山岡の後ろ姿を可笑しそうに見つめて、日下部は、なんだか幸せな空気にニコリと微笑んでいた。
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