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第27話

午後は、急患も急変もなく、書類仕事をバリバリと片付けた山岡と日下部は、揃って帰宅した。 病棟を出る際、日勤の看護師たちが意味深に並んだ2人を見つめ、交代にやってきた中勤の看護師たちとさっそく情報交換を始めて騒動が起きているのを、日下部だけは気づいていた。 相変わらず俯いたままスタスタと逃げるように病院を出た山岡は、そんなことはつゆ知らず、日下部の車に乗り込んでいた。 「ただいま」 「お邪魔します」 日下部の家に入ったところで、2人の挨拶の声が響く。 『そのうち、山岡にもただいまって言わせるからな』 同棲を目論む日下部がこっそりと笑ったのに、やっぱり山岡は気づかない。 それどころか、いつにも増してガチガチに緊張している。 「クスッ。意識し過ぎ」 山岡の思考など手に取るようにわかる日下部は、だから苛めたくなるんだって!とニヤニヤと顔を弛めていた。 「さぁてと。夕食にはまだ早いかな」 リビングに入り、上着をバサッと脱いだだけの日下部にも、山岡は過剰なほどビクリと身を竦めた。 「山岡?寛げよ」 リビングに1歩入ったところで固まっている山岡に苦笑して、日下部はソファを示した。 「あの、その…。はぃ…」 オドオドとソファまで近づいてくる山岡を見て、日下部がついにクスクスと笑い声を漏らしてしまった。 「そんなに警戒する?クスッ。それともそれは、期待しているのか」 「っ?!」 「じゃぁ、その期待には応えないとな」 ニコリ。綺麗な微笑みなのだが、どこか黒い笑みを浮かべた日下部に、山岡は慌ててブンブンと首を振った。 「まぁ、嫌がってもされるのがお仕置きだからね」 「っ…」 「だって山岡、眼鏡禁止令、あっさり破ってくれたもんな~」 「っ…それは…」 「更衣室前で堂々と反抗したの、忘れたとは言わせないよ?」 クスッと笑う日下部に、山岡の顔が目に見えて青ざめた。 「俺の言いつけをそう簡単に破るようじゃぁ、厳しいお仕置きが必要かな?」 「い、痛いのは嫌…」 「ん~、どうしようかなぁ。俺のこと、信用してくれなかったってことだもんな~。悲しいな~」 本当は少しも悲しんでなんかいないのに、わざとらしく悲しげな表情を浮かべる日下部に、山岡はコロリと騙された。 「あっ、その…それは…。ごめんなさい…」 『だから、甘すぎだって、山岡』 しゅんと俯いた山岡に、ゾクリとS心に火がつき、日下部は、にや、と悪い笑みを浮かべた。 「じゃぁ素直にお仕置き受けるよな?」 「い、痛くしないで…下さい…」 すでに目を潤ませて訴える山岡に、日下部は内心でガッツポーズだ。 山岡の発言は、痛くなければお仕置きを受けると同意したと同義語で、日下部は思い通りにことが進みご満悦。 「痛いの、本当に嫌いなんだな。じゃぁ、痛くないのにしてやるな」 「っ…ありがと…ございます…」 うっかりお礼を言っている山岡に、日下部は吹き出しそうになるのを堪えなければならなかった。 (もう、なんて可愛い。純粋。こんな素直なのに、俺に捕まっちゃって可哀想に) クスクス笑う日下部は、それも全て自分が仕組んだことなのを棚に上げ、心底楽しそうに身を弾ませた。 「じゃぁちょっと待ってろな」 にっ、と笑って、スキップしそうな気分で寝室に向かった日下部。見た目は冷静な動きを崩さないのがすごい。 ポツンと1人、リビングに残した山岡が緊張感を高めるのを計算して、日下部はゆっくり時間をかけながら、寝室から目当てのものを持って戻ってきた。 「さぁてと」 手の中に、遠隔操作が出来るタイプのローターを持って、リビングにやってきた日下部。 それを見て、山岡は不思議そうな顔をしながらも、未知の恐怖に震えているようだ。 (まさか、知らない?) 男同士のやり方の知識はあっても、人体について知り尽くしていても、アダルトグッズにまでは縁がなかったか。 壮絶な生い立ちの割にまったく擦れていない山岡に苦笑して、日下部は手の中のローターを弄びながら山岡に近づいた。 「泰佳」 「っ!」 山岡の前で立ち止まった日下部に、山岡の身体が目に見えて飛び上がった。 痛くはしないと言われたものの、何をされるかわからない恐怖があるのだろう。 日下部が手にしているものが何かわからないことも、山岡をさらに不安にさせていた。 「泰佳。取り敢えず、脱ごうか」 「えっ…?」 ニコリと笑って、ズボンを指差した日下部に、山岡は戸惑って目を彷徨わせた。 「下だけでいいよ」 「なっ…」 「お尻出してな」 ニコリ。綺麗な笑顔で、とんでもないことを言い出さないで欲しい。 こんな明るいリビングで、なんでそんな要求になるのか、山岡はただ怯える。 「い、痛いことはしないって…」 日下部の要求に、もしかしてまた叩かれるのか?と思ってしまった山岡が抵抗するのに、日下部は首を振りながら苦笑した。 「俺は言ったことは守るよ」 「っ…」 「ほら。それとも俺に脱がせて欲しい?」 まぁ、どちらも恥ずかしいだろうけど、と笑う日下部に、山岡はグズグズと悩んだ挙句、ソロリと自分でベルトに手をかけた。 「いい子」 「っ…」 震える手でベルトを外し、もたつく手でチャックを下ろしてズボンを下げる。 ピタリとしたボクサータイプの下着が露わになり、恥ずかしそうに顔を赤くする山岡。 「ん?それも」 そこまでで止まってしまった山岡を急かす日下部は、羞恥に身を縮めるその姿に、ゾクゾクとよろこびを感じている。 「泰佳」 ふっ、と1段低くした声で呼びかけた日下部に、山岡はクタンと床に座り込んでしまった。 「泰佳?」 「っ…ゃ、ぁ…。許して…」 よっぽど恥ずかしいのか。下着姿を隠すように蹲る山岡を、日下部が楽しそうに見下ろす。 「この程度で参ってたら、この先もたないよ?」 なにせ、俺はSっ気たっぷりだから、と内心で呟く日下部に、山岡はすでに涙目だ。 「まぁ、可愛いから手伝ってあげるよ」 「なっ…?」 許してあげる、と言わないのが日下部で、床に蹲った山岡の腕を引いてソファに持ち上げ、ちょうどいいとばかりにその背もたれに上半身を預けさせた。 「く、日下部せんせっ…?」 「そのままじっとしてろな」 クスッと山岡の耳元に囁いて、日下部は、座面に膝立ちにさせて背もたれの方を向かせた山岡の下着を、膝の辺りまで引き下ろした。 「っあ…」 下半身を剥き出しにされて、山岡が羞恥に身をよじる。 「動くな」 「っ!」 ペチ、と軽くお尻を叩いた日下部に、山岡の身体は明らかにビクンと硬直した。 「いい子だ。そのままじっとして」 山岡のお尻を叩いた手を、今度は双丘の間に滑り込ませた日下部。 抜かりなくローションで濡らした指先を、ツプッ、と山岡の蕾に潜り込ませた。 「ひっ…」 決して人に触れられるような場所でないところを触られ、山岡の身体に力が入る。 生理と逆の動きを強要される不快感に、ポロリと無意識の涙がこぼれた。 「力、抜けな?」 「やっ…、む、り…」 「ほら」 ズブズブと指を奥に沈めていきながら、日下部はグイと振り向かせた山岡の頭に顔を近づけ、その唇を奪った。 「んっ…」 身体は背もたれに縋ったまま、首だけ回して日下部のキスを受ける山岡。 お尻に差し込まれた指に、クチュクチュとそこを掻き混ぜられながら、口内を日下部の舌に犯される。 苦しいのに気持ちよくて、山岡の身体からゆるりと力が抜けていく。 「んんっ…はっ…」 苦しさから口を開いた山岡の唇の端から、飲み込みきれない唾液が伝い落ちる。 「ん…っ。…んん~っ?!」 すっかり力の抜けた山岡の後ろを十分解した日下部は、山岡がキスにボーッとなった隙をついて、先ほど手に持っていたローターを、ツプンと山岡の後ろに挿れてしまった。 「なに…っ?!」 チュッと音を立てて離れていった日下部の唇。ついでに後ろからも離れた日下部なのだが、後孔に感じる違和感が消えない。 「日下部せんせ…?」 身体も離した日下部を不安そうに見つめる山岡に、日下部は安心するように微笑んだ。 「ただのローターだよ」 「ローター?」 「今日のお仕置きは、俺がいいって言うまで、それを入れておくことな」 ニコリ。無害そうに微笑む日下部に、山岡は首を傾げながらも、コクンと頷いた。 (クスクス。ほ~んと、純粋。まぁ今は、痛くもなければ、違和感があるくらいでなんてことないだろうけどな…) ローターのリモコンをポケットに隠し持ち、不思議そうに、でもやけに安心している山岡を眺める。 「ズボンも下着も履いていいよ」 ニコリ。サラリと許可した日下部に、山岡はパッと嬉しそうにして、素早く身支度を整えた。 『ふふ。その余裕がいつまでもつかな』 悪い呟きを漏らした日下部を、一瞬チラリと見た山岡は、またも不思議そうに首を傾げていた。 「さてと。夕食作るか」 あっさりと山岡を解放し、キッチンへ向かう日下部。 「できるまで好きにしててな」 リビングに残された山岡が、小さく頷いて、ソファに座ったのが見えた。 お尻をついたせいで中のローターを意識したか、一瞬歪んだ山岡の顔が可笑しい。 「酒はどうする~?」 2人ともオンコールではない。キッチンから顔を見せて尋ねる日下部に、山岡はフルフルと首を振った。 「了解」 答えた日下部の声を聞き、テレビのリモコンを手にした山岡。 『さてと。じゃぁジワジワと苛めてあげようかな』 クスッと悪い笑みを漏らして、日下部はテレビのニュースを見始めた山岡の様子を窺いながら、そっとポケットの中に手を忍ばせた。 カチッと小さな音を立てて、ローターのスイッチが入れられた。

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