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第64話
その後、残りの仕事を片付けながらも日下部は、自分を意識している山岡の様子がわかり、内心で笑ってしまった。
帰りの車の中でも意識しているのがバレバレで、助手席の山岡の様子を横目に見て楽しんでいた。
ドキドキしているのか、ギュッと握られた拳は力を入れすぎて震えている。
(かっわいい~。だから苛めたくなるんだっての)
こっそり笑ってしまいながら、器用にステアリングを操った日下部は、マンションの駐車場に車を止めた。
「着いたよ」
「っ、は、はぃ…」
ただ軽く声をかけただけなのに、ビクッと大袈裟に飛び上がる山岡が可笑しい。
日下部は、緊張感マックスらしい山岡に笑いながら、部屋の階まで上がっていった。
「ただいま~」
「お、お邪魔します…」
玄関を入って、リビングに向かいながらも、山岡はガチガチに緊張していた。
ギシギシと音がしそうなぎこちない動きで、リビングまでたどり着く。
日下部はのんびりとキッチンに入って、リビングで止まった山岡に声を投げた。
「さぁてと。食事とお仕置き、どっちを先にする?」
クスッと笑って言い出せば、山岡は途端にビクッと身を強張らせ、目を彷徨わせる。
日下部はそんな山岡の様子を楽しみながら、どうせ答えを出さないだろう山岡をゆったりと待った。
「……」
嫌なことはさっさと済ませるか、ズルズルと後回しにするか。難しい選択だろう。
どちらも嫌で、どちらも選べないだろう山岡を眺めながら、日下部はどうして苛めてやろうかな、と考えて、ゆっくりと冷蔵庫に向かった。
「ん~?選ばないなら、俺が決めちゃうよ?」
「っ…」
ピクンと肩を揺らした山岡の内心は何なのか。どうせされなければならないことならば、日下部が選んでくれればいいというところか。
「いいの?」
再確認した日下部に、山岡は本当にわずかだが、コクンと頷いた。
「クスッ。そう、わかった」
「っ…でも、痛いことは…」
嫌だ、とこの期におよんで往生際悪く言い出すか。本当に痛みは怖いらしい山岡に悪い笑みを向けながら、日下部はふわりと口を開いた。
「それは山岡次第」
「っ…。他…なら、ちゃんと…言うこと聞く、ので…」
「そう?それなら痛いことはされなくて済むんじゃない?」
しない、と断言してやらないところが日下部の意地悪なところだ。
だけど山岡は、それでも大分ホッとしたようだった。
(こんなときはすんなり信じるくせにな)
1番信じて欲しかった誠実な想いを疑われたことを思い出して、腹立たしさを再燃させながらも、日下部はそんなこと微塵も感じさせずに、ニコリと笑った。
「じゃぁとりあえずお仕置きからかな」
「っ…あのっ…」
「ん?」
「ど、道具とか…」
それも嫌、と言い出しそうな山岡に、日下部はスッと冷たい目を向け、首を振った。
「今日はそれは聞かない。わかってる?山岡は俺にとても酷いことしたんだよ?」
「っ…」
わざと怒ったように言えば、途端に反省したように俯く山岡。
(本当、素直。だから俺に付け込まれるんだぞ)
内心ではニヤニヤ笑ってしまいながら、日下部は表面は厳しい顔を崩さずに、ピシッと山岡に言った。
「あんまりイヤイヤ言うようなら、道具使ってお尻叩くよ」
厳しく言った日下部に、山岡の顔がザッと面白いほどに青褪めた。
「ごっ、ごめんなさいっ」
「ん。じゃぁ痛いことはなし。でも道具は使う」
「っ…。はぃ」
「まぁ、嫌なことをされるからお仕置きになるんだし。今日はそこは諦めなさい」
途端に諦めたように大人しくなる山岡に笑って、日下部はのんびりと冷蔵庫を開けた。
「うん、やっぱり…牛乳がない」
「日下部先生…?」
「ちょっとコンビニに行ってくるから、その間に…」
ゆっくりと冷蔵庫の扉を閉め、わざとゆっくりリビングを振り返った日下部は、山岡を見てニコリと微笑んだ。
「寝室に行って、ベッドサイドのチェストの中を見て。それ、自分で入れといて」
何を、とも、どこに、とも言わない日下部。山岡がビクリと身を竦ませ、不安に潤んだ目を向けた。
「俺が帰ってくるまでに出来てなかったら、痛い思いをすることになるからね」
暗にお尻叩くよ、と言う日下部に、山岡はビクッと飛び上がって、慌てて寝室に走って行った。
『さぁてと。何をどうするかな~』
クスッと笑う日下部は、指示したチェストの中に、ローターとアナルパールとローション、コンドームとコックリングを入れてある。
山岡が何を選んでどうするか想像して楽しみながら、わざと大きな声を上げた。
「行ってきま~す」
途端にガタガタンッと寝室から物音が響き、シーンとなった。
『クスクス。ゆっくり行って来てあげる』
どうせすぐにすぐ覚悟が決まるわけがない山岡を思いながら、精々たっぷりと葛藤すればいいと、日下部は玄関に向かった。
車ではなく徒歩で、時間をかけながら、近くのコンビニまで出かけて行った。
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