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第66話
日下部がとてもゆっくり買い物から帰って来たときには、山岡はリビングの床にいた。
ソファの前で、正座で軽く腰を浮かせたような変な体勢をしている。目が潤み、頬を赤らめ、額にはジワリと汗が浮かんでいるのが見えて、いかに日下部の言いつけに格闘したかが窺えた。
『クスクス。自分で解したの、相当恥ずかしかっただろうな』
こっそり呟いてしまう日下部にも、山岡はただ無言で俯いている。
(今日は許してあげたけど、もしも次があったなら、そのときは俺の見ている前でやらせるからな)
ふふ、と悪い企みを浮かべながら、日下部はひとまずリビングを通過して、キッチンに買って来たものを置きに行った。
「ただいま」
「お、おかえりなさっ、い…」
「クスクス。言っておいたこと、やった?」
買った物を冷蔵庫に入れて、リビングに戻った日下部に、山岡がギクリと身を強張らせ、コクンと小さく頷いた。
「そう。じゃぁ証拠を見せてもらおうかな」
ニコリ、と笑いながらの、とても意地悪な発言が飛んでくる。
山岡はヒュッと息を飲んで、小さく震えた。
「山岡?」
早く、と意地悪く急かす日下部に、山岡は小さく首を振った。
「本当に…したから…」
「うん。だから見せてって。確認するから」
まさか、入れた場所を見せろということか。そんなこと自らできるはずがない山岡は、フルフルと首を振りながら許しを乞うた。
「っ…嘘じゃない…です…」
「うん。俺も、嘘なんかついてなかった。でも山岡は信じてくれなかったじゃない」
なんでこんなお仕置きをされる羽目になっているのか。それを思い出させるようなことを言われ、山岡はウルッと目を潤ませた。
「ごめんなさい…」
すでに涙を目にいっぱい溜めている山岡を見て、日下部の嗜虐心に火がつく。
「これはお仕置きだよ?山岡に拒否権はあるの?」
泣け、と思いながら意地悪く言う日下部に、山岡はその意図通りにポロッと涙を零した。
(わ~、ヤバい。だから苛めちゃう。止まらなくなりそう)
山岡の涙にゾクゾクと快感を得ながら、日下部はニコリと微笑んで見せた。
「お尻出して、広げて見せろ、って言ってるの」
「っ…」
わざと羞恥を煽るように言えば、ますます溢れる涙がたまらない。
それでもためらう山岡に、日下部はスゥッと目を細めて、そのズボンのポケットに視線を移した。
「じゃぁ、そっちにする?」
「え…?」
「ポケットの中」
クスッと笑って手を出す日下部に、山岡はビクッと飛び上がり、ノロノロと日下部を見上げた。
「っ…」
証拠、と言うなら、確かにそれもそうだろう。そのスイッチを弄られれば、見せなくても、中に入れたと言うことはきっと信じてもらえるだろう。
だけどそれはそれで自分を追い詰めかねない選択肢で、山岡は日下部を見上げたまま戸惑った。
「俺はどっちでもいいよ」
ニコリと無害そうに笑いながら、山岡にとっては害しかない発言を日下部はかましている。
「山岡?」
コテンと首を傾げる日下部に、山岡はギュッと口を引き結んで、思い切ったようにポケットに手を突っ込んだ。
(ふぅん。意外と早く選んだな。まぁどうせ、最終的にはどちらもされることになるけどな)
クスッと笑ってしまいながら、日下部は震える手で差し出されたローターのリモコンを、山岡の手から受け取った。
「っ…」
日下部は受け取ったリモコンを、山岡から見えないように手の中に隠してしまう。
フラリと不安そうに見上げられた山岡の目が、ジッと日下部を見ている。
いつ動かされるのかと日下部の一挙一動を見逃すまいとでも思っている様子が可愛い。
「……」
ジーッと黙ったままそんな山岡を見下ろし、日下部はニコリと笑ってやる。
山岡の目がゆらりと揺れて、その唇がゆっくりと動いた。
「日下部先生…?」
小さく傾げられた首の意味は何なのか。
中のものを動かされないならそれでいいはずなのに、まるでまだ動かさないの?と言わんばかりの呼び声に、日下部は笑ってしまう。
(そんな目をされたら、余計に苛めたくなるよ?本当、たまらないね。せいぜい焦れるといいよ)
このまま動かされないかも、という選択肢はないらしい。すでに動かされることに覚悟が決まっているような山岡の様子を窺いながら、日下部はそれがいつ起こるかに怯える山岡を楽しんだ。
「あ、の…」
リモコンを奪っておきながら、なんのアクションも起こさない日下部に、山岡はついに焦れて、1番してはいけないことをした。
「た、しかめ、ないんですか…?」
不安そうに見上げてくる山岡の目に、日下部が思わずプッと吹いてしまった。
「っ、くくっ…それ、催促してるの?」
「え…?あ、違っ…」
日下部の笑い声に、山岡は自分が何を口走ったのか気づいたのだろう。途端にカァッと真っ赤になる顔が可笑しすぎる。
(本当、染まってきたなぁ)
どんどん自分好みになっていく山岡を見ながら、日下部は嬉しくて楽しくてたまらなかった。
「そんなに動かして欲しいの?山岡、ヤラシイ~」
ニヤッと笑いながら、今度は言葉責めだ。カァッと頬を赤くする山岡が、涙目になって俯いていく。
「自分で後ろに指入れてどうだった?感じた?」
「っ…」
1人でしただろう行為を思い出させるように、意地悪く言う。
案の定山岡の顔はますます赤くなり、ポロポロと涙を零し始めた。
「自分でお尻出して、後ろに突き出して…ローションは使った?何本入れたのかなぁ?」
「っ、ふっ、ぇっ…くさかっ…せんせ…っ」
うぇぇぇっと泣きながら、イヤイヤと首を振る山岡。それが日下部の嗜虐心の炎に油を注いでいると気付いているのか。
「自分で解して、その後こ~んなの、自分で入れちゃったんだよね?恥ずかしくないの?」
クスクス笑いながら、日下部はようやくリモコンを山岡に見えるように掲げて見せた。
「っ…」
パッと顔を上げた山岡が、ギクリと身を強張らせる。
その目に見えるように、日下部はわざとゆっくり、ローターのスイッチを回した。
「ひっ…あぁぁぁっ」
目の前で一気に強まで回されたリモコン。
途端に中のものが暴れ出し、山岡はビクンッと仰け反って、カクンと床に蹲った。
「ふふ。本当に入ってるみたいだね」
あくまで確認、と言わんばかりの日下部に、山岡はもう思考を散り散りにさせて、フルフルと首を振っている。
「やぁ…、とめて…日下部っ、せんせ…とめてくだっ…さぃ…」
うぇぇん、と泣き声を上げながら、山岡が身悶えている。
日下部はそんな山岡を見下ろしながら、冷静にその様子を眺めた。
(勃たないな。まぁ、どうせ前立腺に当ててなんかいるわけないか)
自らそこまでするわけない山岡をわかっていて、日下部はクスクス笑ってしまう。
「うぁぁ…とめて、ください…お願っ…」
涙に濡れた目で縋るように必死に見上げられ、日下部は満足してカチッとスイッチを回した。
「ん…」
「はぁっ、はぁっ…ありがっ…ござ…」
ローターの動きを止めてやった途端、フッと脱力して、うっかりお礼を言っている山岡が可愛い。
(本当、苛め甲斐があること)
完全に自分の支配下にあることにゾクゾクしながら、日下部はゆっくりと踵を返して、キッチンの方に足を向けた。
「え…?」
「夕食作るな。ちょっと待ってて」
「え…」
突然放置されたことに驚いたのか。不安そうに背中についてくる視線を感じながら、日下部はあえて何にも触れずに、キッチンに立った。
「っ、あの…」
「ん?あぁ、今日はマカロニグラタン。っていっても、牛乳と玉ねぎで簡単にできるやつだから。15分くらい待っててな」
ニコリと笑って玉ねぎと包丁を取り出す。
オーブンレンジの余熱を始めて、日下部は山岡を放ったらかして料理を始めてしまった。
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