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第86話

そんな、山岡が呑気に散歩をしていた頃。オペが終わった日下部と原がナースステーションにいた。 助手と言う名の見学に入った光村も一緒だ。 「いやぁ、面白かったね」 カカカッと笑う光村は、オペ室内で何を見たのか。 「あんなに激しい口喧嘩の中のオペは中々ないよ」 ククッと思い出し笑いをしている光村に、日下部が苦笑し、原が今更ながらに反省していた。 「いやぁ、オーベンにあれだけ食ってかかれる原くんは、中々大物だ」 「すみません…」 「なぁに、結局最後まで取り上げしなかった日下部先生が答えだろう?」 「まぁ…」 好々爺然としているが、さすが年の功か、これほど大きな病院の外科部長を務めているだけはあるのか。光村が見た目ほど食えないことを、日下部は承知だ。 「また次回があったら呼んでね」 「……」 ニコリと笑みを浮かべ、イエスともノーとも言わない日下部に、慣れっ子の光村部長はケロッと笑っただけだった。 「それと、新しい麻酔科の…土浦先生だっけ?いいね、あの人」 「……」 「すごく上手い」 感心しきりの光村に、日下部の顔が苦くなる。 「まぁ腕は認めますけどね…。ところでその土浦先生、うちにはいつ来ているんです?」 話の流れでさりげなくリサーチする日下部は抜かりない。 「確か、月水木と夜間救急だったかな」 「そうですか」 メモメモ、と頭の中にインプットする日下部は、山岡とキャスティングしない算段を計算中だ。 「夜間は毎日です?」 「いや、交代制みたいだが…何だね?日下部先生、もしや土浦先生の麻酔に惚れたかね?」 「えぇまぁ。ぜひ今後のオペも土浦先生に入ってもらいたいものですね」 シラッと言う日下部は、自分がなるべく独占すれば、山岡に回らないと計算している。 「中々美人だったしなぁ。そうかそうか。麻酔科にそれとなく伝えてやろう」 単に面白がっているだけの光村に、けれど日下部はほくそ笑む。 1つの誤算は、ここがナースステーションで、噂好きな看護師の耳があることだった。 (大方計算通りだけど…またネタあげちゃったな…) これを知った山岡が浮気を疑うことはないだろうけれど、看護師たちは絶対に疑う。 また面倒だな、と思いながらも、日下部は自分が悪役になる分には一向に構わなかった。

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