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第104話

「あぁぁ、日下部先生、やっと戻って来たぁ…」 日下部が戻った外来診察室では、原が半泣きになりながら日下部を出迎えていた。 「なに?なんか厄介な症状来たの?」 情けない顔をしている原に眉をひそめて、ちょうど患者の途切れた診察室内に入った日下部は、原の手元のカルテやら画像やらを覗き込んだ。 「なんだ、胆石じゃない。ラパコレね」 サクッと診断した日下部に、原の目がジトッと据わる。 「そんなのはわかってんですよ。そ~じゃなくって…」 「ん?」 「なんで今日は日下部先生じゃないの、なんで日下部先生に会いに来たのにいないの、日下部先生代診でいないなんて来た甲斐がない~って…アンタ、患者を何しに病院に来させてんですか。ナンバーワンホストですか」 げっそりと溜息を吐く原に、日下部の口元がそれはそれは楽しそうに吊り上がった。 「オーベンをアンタ呼ばわりなんて、本当度胸あるよね、原先生?」 「っ…」 「まぁ俺が大人気で、ご指名入りまくってて、そんな俺の代診なんて、クソガキンチョの研修医くんには荷が重すぎなのは分かるけどさぁ」 ニコリと笑顔で何様な台詞を吐く日下部に、原の目が胡乱な目になったところに。 「予約外ばっかさばいてるんじゃないよ…。しかも何この汚い字。慣れない手書きなんてしなくていいから。電子カルテに直接入れてくれていいのに。で?これ、明らかにオーダーミスだよね。何で頭部レ線なわけ?何見たかったの?」 ニコリ。笑顔で全力の嫌味と指摘を与えてくる日下部に、原の胡乱だった目がフラリと彷徨った挙句、とてもまずそうにストンと落ちた。 「あ~?え~っと…」 この一瞬で、机の上に散らかっていたカルテとメモとパソコンの全てを見て、全てを脳内処理したと言うのか。 見事に全部の指摘を済ませた日下部に言葉を失った原を見て、日下部がダンッと机の上に手を置いた。 「ひっ…」 「すぐに胸部腹部にオーダー出し直して、カルテは後で読めるように直しとけ、予約患者早い順にさっさと呼べ」 言いながら、退け、と椅子を奪いに来ている日下部に、原が慌ててワタワタと立ち上がり、とりあえずパソコンで撮影の指示を打ち込む。 すでに次の患者を呼んだ日下部の視線が、チラリと原に向いた。 「ほらこれ、奥持ってけ」 原の悪筆のカルテを渡して、バックヤードに追い払う。 「はい…」 カルテを受け取ってスゴスゴと引き下がっていく原の背中に1言。 「今日の反省会、大変だな~。本当、きみって徹夜好きだよね」 クスクス。嫌味な笑い声を放った、どSの指導医様に、原の情けない悲鳴が後を引いた。 「代診押し付けといて、それはないでしょ~っ、鬼オーベン!」 うわーん、と去っていく原を見送り、日下部はノックをして入ってきた次の患者に、女性特有の悲鳴があがる、とても綺麗な笑みを向けた。

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