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第107話

「見て見て見て~!」 「キャァァ!日下部先生っ、格好いい~っ!」 「何なに?できる男、美魔男特集?イケメン医師日下部千洋先生が語る!って、やぁん、この写真ヤバイ、素敵!なんて雑誌?あたしも買う!」 「あっ、私にも見せてよ!キャァッ!本当イケメン!本当若い!年齢不詳過ぎ。惚れるぅ~」 今日も変わらず、ナースステーション内は朝からハイテンションだ。 看護師の1人が持ってきた雑誌を取り囲み、喚けや叫べやの大騒ぎが勃発している。 「はぁぁっ。なんすか、これ」 こちらは医局。 バサッとデスクの上に雑誌を放った原が、呆れた視線をそれに向けている。 「あぁ、この間、無理矢理取材を受けさせられてな。院長命令で逆らえなくてね」 クスクス笑う日下部に、原の胡乱な視線が向いた。 「その割にこの写真、ノリノリじゃないですか」 「そう?俺はカメラマンに要求されるまま従っただけだよ」 シラッと言う日下部だが、そこに写っている表情は、明らかに積極的な、完璧で魅力溢れる笑顔だ。 「日下部先生、モデルでも食っていけるんじゃないですか」 フッと馬鹿にしたように笑う原に、日下部の笑みが意地の悪いものに変わった。 「まぁできる男ってのは何をしてもそれなりの結果が出ちゃうよね。罪だなぁ」 ふふん、と言い放つ日下部は、相変わらず何様俺様だ。原の嫌味などこうしてバッサリと返り討ちにしてしまう。 「本当、その本性、世間に暴露したい。しかも美魔男って…ただおっさんの若作りでしょうが」 くっそぉ、と負け惜しみを吐いている原だが、明らかに喧嘩を売っている内容に、日下部が楽しいおもちゃを見つけたように目を光らせる。 原はそのことに気づかない。 「ふぅん?おっさんね~?」 「っ!…だ、だって実際…」 「まぁ、クソガキンチョからしたら、俺は大人だけれど?言うに事欠いておっさんね」 「クソガキ…って、だって実年齢…」 「実年齢?」 「あ、いえ、そういえば知りませんでした…けど、だって医大卒で研修医経て、勤務医何年?消化器外科医の専門医資格あるでしょ。それだって取りたてほやほやってわけじゃないでしょ…って、え?あれ?もしかしてどこかでスキップしてます?」 指折り考えていた原の手がピタッと止まり、耳が肩につきそうなほど首が傾げられた。 「日本の教育制度にスキップはないと思うけど」 「あ、じゃぁ留学してたとか、海外にいたとか」 「残念ながら、旅行くらいしか行ったことないね」 「あ~、なんか裏技使って早く認定試験受けられたとか…なわけもないですよね?え?じゃぁ、え?はぁぁっ?!」 徐々に怪しくなって言った原の表情が、完全に驚きに歪んで固まった。 「アンタ…美魔男っていうか…本気で魔法使いとか。見た目若すぎでしょうっ?」 ガーンと原は何にショックを受けているのか、パニックになりすぎて発言が迷走している。 「出た。オーベンをアンタ呼ばわり。しかも魔法使いって…何ファンタジーに突っ走っちゃってるの?いい年した大人が恥ずかしい~」 プッと笑う日下部の意地悪な笑みが炸裂した。 「そ~んな無礼で恥ずかしい研修医くんにはたっぷりお仕置きだね。はい、これ」 スタスタと壁際のキャビネットに歩いて行った日下部が、パパッといくつものファイルと本を選び取り、ドサドサと原のデスクの上に置いた。 「は?え?」 「今日、帰れるといいねぇ?」 フッと冷ややかに笑った日下部に、原の目尻がヘニャリと下がった。 「こんの大魔法使い鬼オーベン!」

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