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第112話
翌日から、原ストーカーに加え、谷野にまで周囲をチョロチョロされ、山岡はげっそりとしていた。
「キャァァ!日下部先生の高校生時代!やばい!この頃からイケメンすぎる!」
「こんなのもあるで?」
「なっ、なっ…半裸~っ!」
悲鳴が上がるナースステーション内。その騒ぎの真ん中にいるのは、何故が部外者のはずの谷野だった。
「あげる代わりに、山岡センセのこと教えてや?」
ペラッと看護師たちの前に並べている写真は、何故か日下部の昔のレア写真。
学生服の日下部に、運動会か何かだろう、上半身裸にハチマキをして笑っている日下部。その他にもあれやこれやとモロモロの日下部の姿がそこに広げられていた。
「こぉら、とら!」
ふと、外来前にナースステーションに顔を出した日下部が、そこで繰り広げられている光景を見つけて、谷野に思い切り拳骨を落とした。
「おまえは…人の写真使って何をやってるんだ…」
はぁっ、と大袈裟に溜め息をつきながら、テーブルに広げられた自分の写真を次々に集めて奪ってしまう。
看護師たちの残念な視線が向くのにニコリと笑って、集めた写真はさりげなくポケットに入れた。
「こんな古い写真をわざわざこいつから欲しがらなくても。なんならこんなのを俺があげるよ?」
綺麗な笑みを浮かべながら、サッと別のスナップを何枚か取り出す。
パラッとテーブルの上に並べられたその写真は、今現在の日下部、医者バージョン。
白衣を着て、色々なポーズをとっている、明らかにプロの手によるショットだ。
「この間の取材で撮ったんだけどボツになった写真だって。もらったんだけど、いらないから、欲しかったらあげる」
「キャァァァッ!欲しい!いる!あたしこのショットがいい!」
「ちょっ、ずるい!じゃんけんよ!」
「格好いい~っ!私も私もっ!」
途端に先ほどの写真のことは忘れて、新たな写真に看護師たちが群がる。
あっさり弾き飛ばされた谷野が、ムスッと膨れて、日下部が勝ち誇ったように笑っていた。
「それ、あげるから、今後この部外者をうちに入れちゃ駄目だよ?後、何か聞かれても答えちゃ駄目」
ふふ、と笑う日下部に、看護師たちが1も2もなく頷いた。
「もちろんですっ!」
「日下部先生の仰せのままに!」
「いやぁん、日下部先生のご命令ならなんでも従っちゃいま~す」
完全に目がハートマークになっている看護師たちに満足して、日下部はゆっくとその大騒ぎの中から離れていく。
完敗した谷野も渋々その後に続く。
「なんやねん。なんで妨害すんねん」
「妨害も何も、こんなもの売ろうとされてたら、普通邪魔するだろ」
こんなもの、と言いながら、ポケットを示した日下部に、谷野がさすがに分が悪い顔をした。
「あ、あははは~」
「ったく、油断も隙もない。というか、まだこんな写真持っていたのか」
「当時は大変荒稼ぎさせていただきましたんでね」
ふっと笑う谷野に、日下部がはぁっと脱力した。
「それは成長してない自分を認めているわけか」
「う…」
「とにかく、うちの看護師たちの仕事の邪魔をするな。ついでに、うちでこそこそ山岡のことを嗅ぎ回るな。邪魔」
ピシッと日下部が言ったところに、ちょうど何故か揃って歩いてきた山岡と原が姿を現した。
「あ…」
「ん?お揃いで」
「あの、と、トイレで偶然会って…。今日、一緒にフリーだって言うから、たまたま…」
急にワタワタと慌て始める山岡にニコリと笑って、日下部がポンとその頭に触れた。
「別に一緒に歩いていたくらいで妬かないけど…。そうか、今日は俺だけ外来か…」
面白くないな、と語る目が、チラッと原を見る。
「え?や、嫌ですよ!もう日下部先生の代診なんて、やりませんからね!」
一度押し付けられ、そのときのあまりの日下部コールに辟易している原が、全力で首を振った。
「まだ何も言ってないんだけど…」
「目が言ってました~っ」
「へぇ?…でもそうそう仕事はサボらないよ。原先生、ちゃんと先輩の言うこと聞いていい子にしてるんだよ」
「子供扱いしないでください」
「山岡先生、こいつ邪魔だったら、どんどん仕事言いつけて追い出していいからな?」
クスッと笑いながら山岡を見つめる日下部に、山岡は苦笑しながら頷いた。
「外来頑張ってください」
「うん。じゃぁまた昼」
言いながらプラッと手を振って去っていく日下部を、山岡と原が見送った。
どちらについていこうか、と一瞬悩んだらしい谷野は、ポツリとその場に立ち止まっていた。
「聞き込み禁止なら、自分で見るしかないわな~。ちぃが言うほどどんなすごい医者か、がっつり観察させてもらうで」
ニヤッと笑いながら谷野は、ナースステーションに入っていく山岡と原の後ろ姿をジーッと見つめていた。
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