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第114話
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「お、お疲れ様でした…」
原と緊急オペに入った山岡は、途中から来た日下部も交えて、無事にオペを終了した。
結局、前立ちは原に任せたままで、助手に入った日下部は、その原のフォローをしまくる結果になっていた。
「あそこで器械取り損ねるとか、神だね、神」
ふっと嫌味に笑って言う日下部に、言われている原は何も反論出来ずに俯いた。
「すみませんでした」
もう昼食の時間のため、3人して食堂に向かいながら、会話が続く。
「あはは。日下部先生、あまり苛めなくても…。日下部先生来るまでは頑張ってくれていましたよ」
横からフォローする山岡に、日下部の面白くなさそうな視線が向いた。
「庇うの?あんな足手まといの助手されて?」
辛辣な日下部にも、山岡は困ったように苦笑するだけだ。
「ない手より全然マシでした」
ケロッと言う山岡に、俯いていた原の顔が上がった。
「神様ぁ~」
「って原先生、褒められてないからな」
「え?褒めていますよ?いきなりやらされたオペで、あれだけ指示に従えれば十分です」
「あんなに聞き返されて、間違えられて、よく怒鳴らないよな、山岡先生…」
「日下部先生だと口も足も出ますもんね~」
山岡のフォローに力を取り戻したか、やっぱり調子に乗って口を滑らす原はチャレンジャーだ。
「原、今日残業」
「は?え?えぇっ…またですかぁ」
「減らない口のきみが悪い。ってことで罰として、今のオペの復習、今日中にさせてやる。次は同じオペ、完璧に助手こなせるようにな」
ふっと笑う日下部は、やっぱりいい男だった。
「っ!あ、ありがとうございます!」
「え?罰受けてお礼言うとか、いよいよMなの?」
クスクス笑っている日下部はわかっている。もちろん隣の山岡も、原も。
「あ~ぁ、俺もまた残業か。山岡先生ごめんな~」
わざと嫌味ったらしく言っている日下部だが、言葉ほど厭っている感じはない。
「いぇ、お仕事ですから。じゃぁオレ今日、夕ご飯適当に食べるので。時間気にせずに頑張ってくださいね」
ニコリと笑う山岡に、日下部がう~んと考えた。
「原次第だけど、なるべく早く帰るよ。でも原次第だから、夕飯保証できないからそうして。あ、ついでに風呂洗っておいてもらっていい?」
「はぃ」
「あまりに遅かったら先に寝ててな」
「できるだけ待ってますけど」
「ん」
やけに親密な会話を交わす2人をキョロキョロ見て、原がえ?え?と目を丸くしている。
「な、な、なんですか!その新婚みたいな会話!もしかしていつの間にか同棲…」
「ど、同居ですからね!変な言い方しないで下さいね」
何が違うのか原には謎だが、珍しく勢いがある山岡に気圧されながら、原がコクコク頷いた。
「ど、同居ですね。でも一緒に住んでるのは否定しないんですね。そんなぁ、またおれのチャンスが遠のいて行くぅ~」
「だから、これは俺の。あげないって言ってるだろ?」
クスクス笑った日下部に、原がまたも無駄な闘志を燃やし、山岡が照れたところで、ちょうど食堂にたどり着いた。
「ん~、いい匂い。今日はカツ丼大盛りにしよっと」
パッと食べ物につられた原が、一瞬前の嘆きも忘れ、早速食券を買いに走っている。
「本当、若いよな…。オペ後に、よくそんな重いものが食べられると思うよ…」
肉は勘弁、と言う日下部に、山岡も苦笑する。
「オレも無理ですね。でも日下部先生は、みんな若いって言ってましたよ?」
クスクス笑う山岡は、日下部のおじさん発言をからかっている。
「それを言うなら山岡も十分若く見えるよな~。川崎さんが1つ上って言ってただろ?……あ~、原が聞いたら山岡も魔法使い疑惑だ」
プッと笑う日下部は、川崎の年齢ならカルテを見て知っている。
「魔法使い?なんですか、それ…」
は?と呆れている山岡は、日下部に似合わないファンタジックな発言に気味悪そうな顔だ。
「気にするな。さてと、俺は何にしようかな~」
券売機の前まで来た日下部が、メニューを見て珍しく考えていた。
「オレはコロッケと茄子にします」
小鉢とか一品とかを選んでいる山岡に、日下部がチラッと視線を向けた。
「米食べろよ?」
「あ、じゃぁご飯…小かな」
「あ、って、食べないつもりだった?」
「え?いえ…た、食べますよ?もちろん」
「原ほどとは言わないけどさ、山岡はオペ後にもう少しカロリーとれよ」
疲れない?と苦笑する日下部に曖昧に首を傾げ、山岡はピッとライスのボタンを素直に押した。
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