115 / 426
第115話
「ではお先に失礼します」
定時少し過ぎ、珍しく早く仕事が終わった山岡が、残業組の日下部と原にペコッと頭を下げていた。
「お疲れ様。夕食ちゃんと食べろよ?」
「お疲れ様です~」
これから勉強を頑張るらしい2人の声が掛かる。
まぁ日下部に限っては原苛めを楽しむだろうが。
「はぃ。原先生も頑張ってください。では」
「は~い」
「急がずに急ぐよ」
クスクス笑う日下部に見送られ、山岡は医局を後にした。
山岡は1人で職員出入り口を出ることに緊張しながら、ちょうど帰るらしい看護師の集団を見つけて、慌ててその側まで走った。
人目があれば、拉致されるようなことはないだろうと思う。
ワイワイ話をしながら出て行く看護師たちに続いて、山岡も病院を出た。
その時。
「よっ、山岡センセ」
「っ!」
いきなりポンッと肩を叩かれ、山岡は可哀想なほどビクッと飛び上がった。
「おれや、おれ」
ニッと笑いながら山岡の前に顔を見せた谷野に、ホッと山岡の身体から力が抜けていく。
「なんだ、谷野先生…」
「なんだってなんや」
「あ、いえ、すみません」
「まぁええわ。あんな…」
「日下部先生なら、今日は残業ですよ?」
今日も夕ご飯かな?と思って言った山岡に、谷野はフルフルと首を振った。
「今日はちぃに用事じゃないねん。山岡センセを待ってたんや」
「え?オレですか?」
「うん。山岡センセ、今日オンコール?」
「いいえ」
「よっしゃ。じゃあ晩飯付き合うてや」
「え…?」
「いややの?」
「え、いえ…」
「色々お話ししたいねん。ええやろ?」
なっ?と腕を取ってくる谷野に、山岡はわずかに考えた後、コクンと頷いた。
どうせデリカでも買って帰ろうかと思っていたのだ。谷野と済ませて帰れば、それはそれでいいかもしれないと思う。
「わかりました。オレでよければ」
「よっしゃ。ほな行こか」
ニカッと笑った谷野に連れられ、山岡は繁華街に繰り出した。
「おれ、まだ土地勘ないんやけど、いい店知ってる?」
「あ…えと…」
谷野の言葉にストンと俯いてしまう山岡は、人と食事に出掛けるという経験に乏しいため、そういう店など知らない。
「特にないなら適当でええか」
「はぃ…」
サクサク仕切ってくれる谷野に助かりながら、山岡は谷野に連れて行かれるまま、気軽に入れそうなダイニング居酒屋に入った。
ともだちにシェアしよう!