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第115話

「ではお先に失礼します」 定時少し過ぎ、珍しく早く仕事が終わった山岡が、残業組の日下部と原にペコッと頭を下げていた。 「お疲れ様。夕食ちゃんと食べろよ?」 「お疲れ様です~」 これから勉強を頑張るらしい2人の声が掛かる。 まぁ日下部に限っては原苛めを楽しむだろうが。 「はぃ。原先生も頑張ってください。では」 「は~い」 「急がずに急ぐよ」 クスクス笑う日下部に見送られ、山岡は医局を後にした。 山岡は1人で職員出入り口を出ることに緊張しながら、ちょうど帰るらしい看護師の集団を見つけて、慌ててその側まで走った。 人目があれば、拉致されるようなことはないだろうと思う。 ワイワイ話をしながら出て行く看護師たちに続いて、山岡も病院を出た。 その時。 「よっ、山岡センセ」 「っ!」 いきなりポンッと肩を叩かれ、山岡は可哀想なほどビクッと飛び上がった。 「おれや、おれ」 ニッと笑いながら山岡の前に顔を見せた谷野に、ホッと山岡の身体から力が抜けていく。 「なんだ、谷野先生…」 「なんだってなんや」 「あ、いえ、すみません」 「まぁええわ。あんな…」 「日下部先生なら、今日は残業ですよ?」 今日も夕ご飯かな?と思って言った山岡に、谷野はフルフルと首を振った。 「今日はちぃに用事じゃないねん。山岡センセを待ってたんや」 「え?オレですか?」 「うん。山岡センセ、今日オンコール?」 「いいえ」 「よっしゃ。じゃあ晩飯付き合うてや」 「え…?」 「いややの?」 「え、いえ…」 「色々お話ししたいねん。ええやろ?」 なっ?と腕を取ってくる谷野に、山岡はわずかに考えた後、コクンと頷いた。 どうせデリカでも買って帰ろうかと思っていたのだ。谷野と済ませて帰れば、それはそれでいいかもしれないと思う。 「わかりました。オレでよければ」 「よっしゃ。ほな行こか」 ニカッと笑った谷野に連れられ、山岡は繁華街に繰り出した。 「おれ、まだ土地勘ないんやけど、いい店知ってる?」 「あ…えと…」 谷野の言葉にストンと俯いてしまう山岡は、人と食事に出掛けるという経験に乏しいため、そういう店など知らない。 「特にないなら適当でええか」 「はぃ…」 サクサク仕切ってくれる谷野に助かりながら、山岡は谷野に連れて行かれるまま、気軽に入れそうなダイニング居酒屋に入った。

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