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第117話
「ほんで?ちぃのどこが好きなん?」
「ん~?日下部先生はね~、ごはん美味しいの」
ニコリと笑っている山岡は、かなり酔っていた。
「飯?胃袋掴まれとんのかい」
ぶはっと笑う谷野は、口が軽くなった山岡にご満悦だ。
「うん。お料理上手。あとね~、格好いいよ?」
ヘラッと笑う山岡に、谷野は苦笑だ。
「まぁ見た目も大事やな。はいはい、他は?」
「他に~?う~ん…」
急に真剣に悩み始めた山岡に、谷野はオイオイと脱力した。
「料理と顔だけかい!」
「ん~」
「もっと、優しいとか…色々」
「優しい?日下部先生がぁ?日下部先生はね、意地悪だよ?」
ニコリと笑って首を傾げる山岡の無邪気な仕草に、谷野がウッと悩殺されかかっていた。
「ちぃもヤラれたか、これ。ヤバイな~。山岡センセ、隙あり過ぎ」
「ん~?だって日下部先生、ごはん食べないと怒るよ~。なんかね~、包丁も使わせてくれないの」
今度はムッと口を尖らせる山岡に、谷野が首を傾げた。
「包丁?」
「うん。オレが下手だから~。手ぇ切ったの。そしたらもう駄目って」
意地悪でしょ?と首を傾げる山岡に、谷野の疑問も深まった。
「包丁が下手?手を切った?だって山岡センセ、ちぃが認めるほどの外科医なんやろ?」
どういうことやねん、と不思議そうにしている谷野に、山岡はニコリと笑った。
「山岡はメスしか持っちゃ駄目だーって。メス以外の刃物持ったらお仕置きなんだよ~?痛いの~」
何を思い出したのか、ウルッと目を潤ませた山岡に苦笑しつつ、谷野は少しだけその意味がわかった。
「やっぱりちぃは山岡センセの外科医の腕、認めとんのやな。そないにすごいんかいな、あんた」
見えへん…と呟いている谷野に、山岡はコテンと首を傾げた。
「オレのオペに惚れたんだって。日下部先生ね、オレがオペしてるの見て好きになったんだって。えへへ」
何故か照れた山岡に、谷野はますます疑問を深めた。
「どんだけすごいオペしたんやろな。そんなん、おれも見たなるやん」
谷野は、日下部が認めている山岡の腕を、どうしても見たいと思う。
「ふつーの緊急オペ~。谷野先生はウロでしょ?一緒のオペはしないね~。日下部先生は一緒にするの~。いいでしょ~」
ニコニコしている山岡の発言に、そろそろ引き出せる情報もないか、と思った谷野は、ポンッと山岡の頭を撫でた。
「はいはい、羨ましいよ。ったく、ノロケよって。あんたらが相思相愛だっちゅ~ことはようわかった」
「ん~…オレはね、千洋に会えて良かったよ…。真っ暗がね、千洋がいると…ふわって、灯りがね…。千洋はね、あったかいんだ…」
ポツリ、ポツリと言いながら、山岡がスウッと眠ってしまった。
「あ、おい。山岡センセ?嘘やろ…」
ゴンッとテーブルに突っ伏しても目覚めない山岡に、谷野が派手に溜息をついている。
「でもあんた…なんや、重いもん背負うとるんやな…。髪も関係あるんやろ。ちぃは全部知ってて、あんた支えとんのやな…」
敵わんわ、と苦笑しながら、谷野はとりあえずお会計を頼んで、支払いを済ませ、寝たままの山岡を担ぐように支えて店を出た。
そのままタクシーを捕まえ、ニヤリと笑いながら行き先を告げた。
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