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第125話
「ゼィ、ゼィ、ゼィ…し、死ぬかと思った…」
ひたすら心臓マッサージを続けさせられた原が、息も絶え絶えにナースステーションの机に突っ伏していた。
「縁起でもないことを言うな」
コツンと原の頭をぶっている日下部だけれど、こちらもさすがに息が上がっていた。
「いや、違いますよ?患者さんじゃなくて、おれがです」
水ぅ、と喚いている原に、日下部の呆れた視線が向く。
「若いのに情けない。山岡先生を見てみろ」
チラッと日下部が視線を向ける先で、同じように急変に駆け付け、心臓マッサージを途中代わったりしていたはずの山岡はケロッとすでに病棟の仕事に取り掛かっていた。
「なんでっ、あんなに、余裕そう、なんですかね…」
とても体力があると思えない山岡を見て、原が恨みがましそうな視線を向けている。
日下部はクスッと笑って、原の頭を再び小突いた。
「上手いから」
「へ?」
「きみの無駄がありすぎる心マに比べて、山岡先生のは、無駄がなくて上手だから」
ニコリと笑う日下部に、原がジトーッと恨めしい目を向けた。
「どうせおれは下手ですけど!でもいくら上手くたって、あんな体力仕事…」
テクでどうなるものでもない、と言い張る原に、日下部はクスクスと可笑しそうに笑った。
「まぁ、冗談だけど。でもわかっただろう?」
「え?何がです?」
「山岡先生に、体力ないと思ってるんだろ」
どうせ、と言う日下部に、原は躊躇しつつも、コクンと頷いた。
「そりゃ、どうみても体力なんてありそうにないですよ。あ、もしかして、俺が毎晩運動させてる、とか言い出さないでくださいね」
ジトーッと疑いの目を向ける原に、日下部がこれでもかというほど大袈裟な溜め息をついた。
「きみね、オーベンを何だと思ってるの」
「え~?日下部先生に限っては、意地悪でどSで…っと、睨まないでくださいよ。今日は残業しないって明言してたの、そっちですからね!」
「だからって、言いたい放題言っていいってことじゃない」
「う…すみませぇん」
ようやく何とか息が整ってきた原が、結局日下部にやり込められて謝っている。
それを満足そうに眺めた後、日下部は真面目な顔をして原を見つめた。
「山岡先生に体力がないと思っているんだったら、その認識を改めろってこと」
「え…?」
「むしろ、体力がなきゃ、外科医なんてやってられない。きみね、長時間のオペがどれくらいかかるかわかってる?」
「あ…」
「途中で多少の休憩は挟むにしても、ずっと立ちっ放しの集中しっ放しだよ?それに…」
「っ…」
「昼間の診療、予定のオペ、それに加えて急変、急患に緊急オペ、休日夜間の呼び出しに、当直。どれだけハードか、ちゃんと理解してるかい?」
このクソガキンチョ、と笑う日下部に、原の表情が引き締まった。
「おれ…」
「うん。もし、本格的に外科医目指すんだったら、これくらいで死ぬなんて音を上げているようじゃ勤まらないってことだけ覚えておいてね」
「っ、はい…」
「ま、さっさと音を上げて、別の科行くならそれでもいいし」
クスッと笑う日下部は、本当のところ、原を随分と可愛がっているのは周知だった。
「おれは…っ」
「うん。いいよ、まだまだ可能性の幅を狭めなくて。さぁてと、でもさすがに休憩するか~」
偉そうに言っていても、実のところ日下部も微妙に疲れていた。
「山岡先生、休憩室行かない?」
不意に、カルテを持ってウロウロしていた山岡に声をかけた日下部に、山岡の身体がピクッと反応した。
「原先生も連れていくから」
2人きりは警戒するだろうと思い言った日下部に、山岡はふらりと目を彷徨わせた後、小さく首を傾げた。
「病棟が留守に…」
「ん?さっき、井上先生がオペ室から帰ってきてたよ?医局にいるんじゃない?」
大丈夫、と笑う日下部に、山岡はわずかにためらった後、コクンと頷いた。
「はぃ…」
「ほら、原先生。水分補給行くよ」
ポコンとまた原の頭を叩いた日下部が、スッと椅子から立ち上がり、ナスーステーションを出ていった。
その後を、山岡と原も追いかけた。
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