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第131話
「んっ…ぅ」
朝。
ごそりと身動いで、目を覚ました山岡は、このところ隣に大体あるはずの温もりがないことに気がついた。
「ぁ…」
冷たいシーツの感触。1人だと広すぎるベッド。
「日下部先生…?」
昨夜はここに寝なかったのか、とっくに起きて、もう抜け出してしまったのかはわからない。
けれど、今山岡がベッドに1人きりというのは確かなことで、山岡は寂しくなりながら、そっと身体を起こした。
「っ!痛ぁ…」
ベッドに座る形で上半身を起こしたら、ついたお尻がズキズキ痛んだ。
「うぅ…」
(尻もちをついて打撲をした後みたいだ)
山岡はまだ痛みが残るお尻に怯えながら、ソロソロとベッドを抜け出した。
「はぁっ…」
お尻はまだ痛いわ、泣きじゃくって寝た目は重いわ、その上今日はすでに新たなお仕置き宣告を受けている。
ノロノロとぎこちない動きで、山岡はゆっくりとドアに向かい、リビングに顔を出した。
「ん?おはよう」
コポコポとコーヒーを入れていた日下部が、山岡の気配に気づいて振り返った。
休日仕様なのか、お洒落な柄のシャツに薄い色のスラックス姿。
「っ…」
ニコリと微笑む顔は優しくて、その格好いい姿に思わず見惚れてしまう。
「ん?ほら、顔を洗っておいで。朝食出来ているよ」
トーストやら目玉焼きやらが並んでいるテーブルを示して日下部が微笑む。
「っ…でもオレ…」
まだ許してもらってないことがある、と言おうとした山岡にニコリと笑って、日下部がうん、と頷いた。
「朝食が済んだら早速お仕置きするから。着替えはいいからな」
どうせ脱がす、と笑う日下部に、山岡はビクッと身を強張らせてから、コクンと頷き、洗面所に向かった。
手早く顔を洗い、風呂のときに外したまま置きっ放しだったヘアバンドで髪を上げてリビングに戻る。
かなり腫れた目を、日下部が苦笑して見ていた。
「たくさん泣いたまま寝たからなぁ。ホットタオル作ろうか…」
せっかくの美貌が台無し、と言う日下部だけれど、山岡は多少瞼が重いくらいで、別に困りはしないと、フルフル首を振る。
「そう?まぁ、どうせまた泣くか」
サラリと、泣かせる気満々の日下部の発言に、山岡の肩がピクンと震えた。
「とりあえず朝ごはんを食べちゃおう。コーヒー飲む?」
「いえ…」
「お茶?」
「水でいいです」
コップを取り出しながら笑う日下部に答えて、山岡は朝食が用意されているテーブルに着こうとした。
「っ!」
何気なく椅子に座った瞬間、またピョコンと立ち上がった山岡。
それを見た日下部は、その行動の意味がわかって吹き出した。
「プッ…痛いの?」
「っ…」
涙目になって恥ずかしそうに俯く山岡に、日下部は声を上げて笑ってしまった。
「はははっ、そんなに?大丈夫?」
自分でこっ酷く叩いておきながら、口先だけ心配している日下部は意地悪だ。
爆笑の中から言われる大丈夫かなど、言葉ほどの意味がない。
「っ…」
ギュッと唇を噛み締めてしまった山岡は、恨めしそうに硬い椅子を睨んでいる。
それでも日下部に向かわない恨みつらみが、山岡の心根を表していて、日下部はクスクス笑いながら、ソファからクッションを持ってきた。
「どうぞ?」
大分厚みのあるクッションを敷きながら、ニコリと笑う日下部に、山岡はコクンと頷いた。
「ありがとうございます…」
ポツリと言って、今度は恐る恐るそこに座る山岡を楽しみながら眺めて、日下部はその向かいの席にストンと腰を下ろした。
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