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第132話

「いただきます…」 至れりつくせりの朝ごはんに、山岡がさっそく手を伸ばす。 どちらかと言うとパンが好きな気がする山岡を見ている日下部は、大抵朝はパン食を作ってくれる。 「でも、ちゃんと聞いたことなかったけど、朝ってパンの方が好き?本当はご飯がいいとか」 「え?いえ、オレはどちらでも」 まぁ、聞いたところでそう返るだろうというのは日下部も予想していた。 「俺、山岡はパンが好きなんだと思ってた。昼もよくパンを食べてたろ?」 ん?と尋ねる日下部に、山岡はコテンと首を傾げた。 「楽だから…」 「え?」 「長持ちするし…手で食べられるから…」 確かに、箸やスプーンはいらないな、と思う日下部は、その理由に苦笑した。 「本当、お腹に入ればなんでもいいのか…」 「すみません…。でも今は、日下部先生の作ってくれるものは美味しいから…」 なんでもいいとは違う、と言う山岡が、日下部には可愛くてたまらなかった。 「それは計算?」 「え?」 キョトンとしている山岡に、日下部はニコリと笑った。 「なんてな。山岡に限ってそれはないか。天然だから怖いんだよな」 これからたっぷり苛めてやろうと思っているところに…と呟いている日下部を、山岡は不思議そうに眺めていた。 「さてと。少し食休みしたら、お仕置き始めるからな」 朝食の済んだテーブルを片付け、のんびりとソファに座った日下部が、ニコリと笑った。 「山岡、立ってないで座ったら?ソファなら痛くないだろ?」 テーブルの横にポツンと立っていた山岡を振り返り、日下部が苦笑した。 「っ…いえ…」 これから何をされるかわからないことに緊張している山岡は、とても寛ぐどころではない。 正直、呑気に休むくらいなら、いっそさっさと責めてくれればいいのに、と思っている。 日下部は、そうして怯えながらも焦れる山岡を楽しんでいた。 「雑誌見る?そういえば、これもらったんだよね」 俺が載っているやつ、と笑う日下部に、山岡は小さく首を振った。 「っ…」 「余裕ないね」 クスッと笑った日下部に、ぐっと唇を噛み締めて、山岡は俯いた。 「じゃぁ始めるか」 ふっと息を吐いてソファから立ち上がった日下部が、寝室の方へ歩いて行く。 そうして寝室に消えた日下部が、手に何かを持って戻ってきた。 また初めて見る道具で、山岡の身体がビクリと強張る。 日下部はニコリと笑って、それをリビングのローテーブルの上に置いた。 「こっちに来て」 「っ…はぃ」 ダイニングテーブルの側から、ソロソロと歩いて行った山岡の目は、日下部が持ってきた道具に釘付けだ。 「気になる?」 チラリと山岡に視線を向けた日下部に、山岡は頷きかけて、目を大きく開いた。 「っ、まさか…」 近くまで行った山岡は、そのテーブルに置かれた道具の形状がよくわかった。 そしてその形から、用途も想像がついた。 「浮気のお仕置きだからね。やっぱりこれでしょう」 「っ…それって…」 「ご想像通り。貞操帯って呼ばれるもの」 「っ!」 「これつけて1週間過ごさせる、って言ったら?」 ニコリが、完全にニヤリに見えた山岡は、青褪めて首を振った。 「後ろにはこれ、アナルプラグを入れてあげる。これで射精も排泄もセックスも、全部俺の管理下。俺の許可なくできなくなる。浮気をした罰には最適だろう?」 とんでもないことを、笑顔で平然と言ってのける日下部に、山岡はただひたすら首を左右に振り続けた。 「いや…嫌です、いや…」 「ふぅん。浮気しといて、拒否するんだ」 「っ…でも、だって1週間も…」 そんなものをされたら、きっと仕事にならなくなる…という言い訳もあり、山岡は必死で取りつく島を開発した。 「まぁ、オペにも診察にも集中できなくなるのは目に見えるね」 「じゃぁ…」 「仕方ないね。それなら選ばせてあげる。寝室のクローゼットに行って、紙袋があるから、それを持っておいで」 ニコリと笑う日下部に、山岡は不審な思いをいだきつつも、これよりマシな選択肢があるのなら、と思って、急いで寝室に向かった。

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