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第143話

そうして夕方。 オペが終わった後は、ずっと医局で書類仕事をしていた山岡。同じく原を指導しつつ、書類を片付けていた日下部がそろそろ切り上げようかと腰を上げた。 「あ~、疲れた」 大きく伸びをしながら立ち上がった日下部を、山岡と原がチラリと見た。 「原先生、今日はもう終わっていいよ」 「え?マジっすか?やった~」 定時過ぎ、けれどここ最近にしてはかなり早い時間に、原が喜んで椅子から立ち上がった。 「山岡先生は?まだ居残り?」 積み上がったファイルの間から顔を上げていた山岡を見た日下部の眉がギュッと寄った。 「顔色悪くない?」 いくらか青ざめているように見える山岡の顔に、日下部が心配そうな声を上げた。 「そうですか?まぁ少しお腹の調子が…。疲れですかね」 小さく微笑む山岡に、日下部は心配そうに目を細める。 「このところ忙しいからな。今日はもう帰って早く休め。夕食ちゃんと食べて温かくして寝ろよ?」 「そうします」 心配してくれる日下部の気持ちを受け取るのと、本気で不調な気がする山岡は、素直に頷いた。 「じゃぁ下までご一緒しましょ。日下部先生、当直頑張ってください~」 にこりと得意げに笑う原に、日下部は苦笑しながら頷いた。 「どうも。ちゃんと外まで送ってやれよ」 「ちぇっ。余裕ですか。面白くないですね~。少しは妬いたり焦ったりしてくださいよ」 「その魂胆が見え見えのきみにわざわざのるわけがない」 お馬鹿、と笑う日下部に、ムーッと口を尖らせながらも、原はタタタッとドアに向かった。 「行きましょ、山岡先生」 「はぃ。ではお先に失礼します」 「あぁ。お疲れ様。おやすみ」 ニコリと微笑む日下部に見送られ、山岡と原は医局を後にした。 職員出入り口に向かいながら、原が歩みの遅い山岡を窺った。 「山岡先生、本当に調子悪そうですけど…」 「うん…お腹が痛い。胃かなぁ?」 みぞおちの下辺りに触れて首を傾げる山岡に、原も首を傾げた。 「薬もらって行きます?」 幸い病院だし、と言う原に、山岡は苦笑しながら首を振った。 「このところ忙しいし、食生活も乱れているから…そのせいかな。我慢できる程度だし、帰って休めばなんてことないかな」 ニコリと笑う山岡に、そうですか?と頷いて、2人はのんびりと病院を出た。 「じゃぁ、本当、ちゃんと休んでくださいね」 「はぃ。ありがとうございます。お疲れ様」 「お疲れ様でした」 方向の違う2人はそこで別れ、山岡は歩く気がしなくて、短距離で悪いと思いつつも、タクシーを使ってマンションに帰った。 「うぅ、やっぱりお腹が痛い…。まさか胃腸炎じゃないよなぁ…」 下痢はしてないけど、と思いながら、山岡はリビングのソファにバタンと倒れ、そのまま目を閉じた。

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