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第167話

翌日、朝早くやってきた日下部に、山岡はちゃんと目を覚ましておはようと笑った。 ホッとした日下部は、それだけ確認して、外来診察のために病室を出て行った。 午前中、山岡はやってきた精神科のカウンセラーと、ゆっくり話をした。 結局、やっぱり山岡には、昏睡中の記憶はなかった。 「ではまたいつでも声をかけてくださいね」 「はぃ。ありがとうございます…」 ニコリと微笑んで出て行くカウンセラーを見送り、山岡はパタンとベッドに倒れる。 日下部から聞いていたこともあり、大きな混乱もなく、消えた18日間を受け入れていた。 午後は脳の検査を受け、異常がないことが確認された。 その後、シャワーを浴びたり、うつらうつらしたりしてのんびり過ごした。 そうして夕方。 定時も大分過ぎた頃、白衣姿の日下部がやってきた。 「あ、日下部先生。お疲れ様です」 「うん。何?荷物の整理?」 「はぃ。明日退院するので。あの、着替えとか色々、ありがとうございました」 ベッドの横のキャビネットでゴソゴソやりながら、山岡が日下部を振り返ってニコリと笑った。 「うん。まぁ数日は自宅療養で…」 「いえ、仕事に出ます。もう十分休んだみたいですし」 覚えていませんが、と苦笑する山岡に、日下部は苦い顔をした。 「そんなにすぐに復帰しなくても…」 「でもオペの傷も塞がっていますし、悪いところはもうないですし」 「まぁな。でも、病みあがりなんだから、初めはゆっくり肩慣らし程度でな」 「はぃ、それは甘えさせてもらいます」 ニコリと笑って頷く山岡に、日下部は納得して微笑んだ。 「じゃぁ、復帰できるほど元気なら、今夜が最後の夜だし」 ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた日下部に、山岡がギクリと身体を強張らせた。 「あの…」 「さぁて、山岡さん?診察するので、ベッドに横になってもらえますか」 ニコリと微笑んでスイッチが入った日下部に、山岡はフラフラと目を彷徨わせた。 「あの、えっと…」 「大丈夫。ここには近づくな、って看護師さんには言ったし、面会謝絶札も下げてきた。鍵もかけたよ。あ、でも防音じゃないからな~。声は気をつけてな」 クスッと笑う日下部に、山岡の目が涙目になった。 「本当にするんですか?」 「そう言ったろ?」 「う…」 「心配かけたこと、悪いと思っているんだよな?」 「はぃ…」 「じゃぁベッドに上がって」 ニコリ。意地悪モードに入った日下部に、山岡が敵うわけがなかった。

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