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第168話

「っ…」 ソロソロとベッドに上がった山岡は、日下部がいつの間に持ち込んでいた、カートに乗った色々な道具にギョッとなった。 「ちょっ…本気で?」 準備万端な日下部に、早くも山岡は泣けてくる。 日下部が持ってきていたのは、いつもの用途不明な代物たちではなく、れっきとした医療器具だ。だけど使い方によっては嫌な予感しかないものばかり。 「ほら、早く横になってください?患者さん」 ニコリと急かす日下部に、山岡はビクビクしながらも、渋々ベッドに横たわった。 「まずはオーソドックスにこれかな。前開けますよ~」 楽しそうに弾んだ声を隠しもせずに、日下部はポケットから聴診器を取り出し、耳にはめた。 もう片方の手で、手早く山岡のパジャマのボタンを外してしまう。 白い肉付きの薄い山岡の上半身があらわになった。 「傷、残るな…」 「でもこれくらいは…」 「山岡だったら単孔でいけただろ。ごめんな」 へそのところにだけ1つ穴を開けてできる単孔式の腹腔鏡手術が、虫垂炎では行うことができる。 けれどもそれはとても高度な技術が必要だ。虫垂炎の程度によってや、術者の技術によっては、3つ4つ穴を開けて行うことになる。 「いえ。進行させてしまったのはオレです。それに命が助かれば、これくらいの傷くらい。ありがとうございました」 「本当、山岡だな。さてと、気を取り直して…診察開始だ」 「ひゃっ…」 日下部は、聴診器を温めてくれることなく、わざと山岡の胸に当ててきた。 しかも、明らかに意図的に、乳首を掠めるように触っていく。 「っ、や。やぁっ…」 「ん?少し心拍が早いですね」 チラッと山岡の様子を見て、わざとらしく意地悪に言う日下部に、山岡の目に涙が浮かぶ。 「ふぇっ…ひぁっ」 スルッとわざと脇腹を撫でる日下部に、山岡はビクッと身体を弾ませた。 「暴れないでくださいね」 「っ、こんな…」 病室で、白衣姿の日下部に責められているというだけでも恥ずかしいのに、あくまで診察の体を崩さない日下部に、自分だけ変な気分にさせられていることが、余計に山岡を追い詰める。 もちろん日下部の方は、それを計算してやっているのだからたちが悪い。 「っ、つぅ、あぁっ…」 スッと乳首の上を掠めたかと思った聴診器が、クニュッと乳首を押し潰すように押し付けられ、山岡は思わず嬌声をもらした。 「ん?ここ、固くなっていますね。病気かな?」 ニヤリと笑う日下部は、大分開発された山岡の身体に喜びを感じる。 山岡の方は恥ずかしさからか、完全に涙目で、顔を真っ赤にしている。 (本当、可愛い。もっともっと苛めてやるな) 山岡にとっては全く嬉しくないだろうことを考えながら、日下部はスッと聴診器を離し、ふと別の道具に目を向けた。 「では次はこちらも診察していきますね。下、おろしてください」 ニコリと微笑みながら、ズボンを示す日下部に、山岡はブンブンと首を振る。 「脱がなきゃ診れませんよ?」 ニコリと笑われても、見なくていい!と思う山岡は動けない。 「ほら、どっちがいいかな?」 嘘くさい笑顔のまま、日下部が手にしたのは、肛門鏡と直腸鏡だった。 「っ!い、嫌です…」 どっちも、と思う山岡は医者だ。 それが何をする器具で、どう使うかは悲しいほどよく知っている。 「もっ、許して…」 イヤイヤと首を振り、ポロポロ泣き出す山岡に、日下部はそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべた。

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