168 / 426
第168話
「っ…」
ソロソロとベッドに上がった山岡は、日下部がいつの間に持ち込んでいた、カートに乗った色々な道具にギョッとなった。
「ちょっ…本気で?」
準備万端な日下部に、早くも山岡は泣けてくる。
日下部が持ってきていたのは、いつもの用途不明な代物たちではなく、れっきとした医療器具だ。だけど使い方によっては嫌な予感しかないものばかり。
「ほら、早く横になってください?患者さん」
ニコリと急かす日下部に、山岡はビクビクしながらも、渋々ベッドに横たわった。
「まずはオーソドックスにこれかな。前開けますよ~」
楽しそうに弾んだ声を隠しもせずに、日下部はポケットから聴診器を取り出し、耳にはめた。
もう片方の手で、手早く山岡のパジャマのボタンを外してしまう。
白い肉付きの薄い山岡の上半身があらわになった。
「傷、残るな…」
「でもこれくらいは…」
「山岡だったら単孔でいけただろ。ごめんな」
へそのところにだけ1つ穴を開けてできる単孔式の腹腔鏡手術が、虫垂炎では行うことができる。
けれどもそれはとても高度な技術が必要だ。虫垂炎の程度によってや、術者の技術によっては、3つ4つ穴を開けて行うことになる。
「いえ。進行させてしまったのはオレです。それに命が助かれば、これくらいの傷くらい。ありがとうございました」
「本当、山岡だな。さてと、気を取り直して…診察開始だ」
「ひゃっ…」
日下部は、聴診器を温めてくれることなく、わざと山岡の胸に当ててきた。
しかも、明らかに意図的に、乳首を掠めるように触っていく。
「っ、や。やぁっ…」
「ん?少し心拍が早いですね」
チラッと山岡の様子を見て、わざとらしく意地悪に言う日下部に、山岡の目に涙が浮かぶ。
「ふぇっ…ひぁっ」
スルッとわざと脇腹を撫でる日下部に、山岡はビクッと身体を弾ませた。
「暴れないでくださいね」
「っ、こんな…」
病室で、白衣姿の日下部に責められているというだけでも恥ずかしいのに、あくまで診察の体を崩さない日下部に、自分だけ変な気分にさせられていることが、余計に山岡を追い詰める。
もちろん日下部の方は、それを計算してやっているのだからたちが悪い。
「っ、つぅ、あぁっ…」
スッと乳首の上を掠めたかと思った聴診器が、クニュッと乳首を押し潰すように押し付けられ、山岡は思わず嬌声をもらした。
「ん?ここ、固くなっていますね。病気かな?」
ニヤリと笑う日下部は、大分開発された山岡の身体に喜びを感じる。
山岡の方は恥ずかしさからか、完全に涙目で、顔を真っ赤にしている。
(本当、可愛い。もっともっと苛めてやるな)
山岡にとっては全く嬉しくないだろうことを考えながら、日下部はスッと聴診器を離し、ふと別の道具に目を向けた。
「では次はこちらも診察していきますね。下、おろしてください」
ニコリと微笑みながら、ズボンを示す日下部に、山岡はブンブンと首を振る。
「脱がなきゃ診れませんよ?」
ニコリと笑われても、見なくていい!と思う山岡は動けない。
「ほら、どっちがいいかな?」
嘘くさい笑顔のまま、日下部が手にしたのは、肛門鏡と直腸鏡だった。
「っ!い、嫌です…」
どっちも、と思う山岡は医者だ。
それが何をする器具で、どう使うかは悲しいほどよく知っている。
「もっ、許して…」
イヤイヤと首を振り、ポロポロ泣き出す山岡に、日下部はそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべた。
ともだちにシェアしよう!