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第182話

マンションに帰り着いて、真っ直ぐに山岡を脱衣所に連れ込んだ日下部は、オロオロと戸惑う山岡に、クスクスと意地悪な笑いを漏らしていた。 「ん?どうしたの?お風呂なんだから、脱がないと入れないだろ。早く脱げよ」 ジーッと見つめる日下部の視線の前で、山岡は服が脱げずに困っている。 (初っ端からこれじゃぁ、山岡もたないぞ~) 入る前から恥ずかしがる山岡に、日下部はさすがに苦笑した。 「なに?脱がして欲しいってこと?」 いいよ、と笑いながら、さっさと山岡に手を伸ばす日下部に、山岡がビクリと跳ねて身を引いた。 「じ、自分で脱げます…」 ワタワタと慌てる山岡に、日下部は笑い声をあげた。 「そう?じゃぁどうぞ」 「っ…く、日下部先生も脱いでください…」 自分だけ、と言う山岡に、日下部はニヤリと唇の端を吊り上げた。 「じゃぁ遠慮なく」 プチプチとシャツのボタンを外し、バサリと服を脱いだ日下部に、山岡がフラフラと視線を彷徨わせた。 (見るのも恥ずかしい、だろ?そう躾てあるっての) 思惑通りの山岡の反応に笑いながら、日下部は見せつけるように服をどんどん脱いでいった。 「っ…」 目の置き場に困って俯く山岡は、まだ1枚も脱いでいない。 「泰佳?」 「う…で、電気…」 「消したら危ないから駄目。ほら、脱げ」 早く、と急かす日下部は、もう下着1枚だ。 「っ…は、ぃ…」 自分だけ恥ずかしがっているのが恥ずかしいのか、山岡もようやくモソモソと服を脱ぎ始めた。 運動が好きそうではない山岡だが、それなりに均整の取れた綺麗な身体があらわになっていく。 日下部に比べたら全然華奢な山岡の身体は、体毛も薄く、肌も滑らかだ。 「傷、まだわかるな~」 山岡の上半身があらわになり、日下部の目がいくのは、自分がつけた術跡だ。 「まぁそうですよ…でもきっと半年もすればわからなくなりますし」 互いに外科医の山岡と日下部は、こんな傷は見慣れている。その後の経過も十分承知だ。 「まぁな~。んで?ほら、下は?」 早く脱げ、と促す日下部に、山岡はオズオスとズボンに手をかけた。 「ふふ」 ジーッと見ている日下部の前で、山岡もようやく下着1枚になる。 「ほら、それも」 それ、と言って下着を示す日下部に、山岡は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべた。 「千洋ぉ…」 ここで縋るような目は反則だ。 潤んだ瞳を向けられた日下部は、その計算のない態度に苦笑する。 「ったく、わかったよ。後ろ向いててやるから」 ニコリと言って、クルリと背を向けた日下部に、山岡はホッとしたように顔を緩めた。 (って油断させつつ、見えてるんだよな~) 洗面台の鏡に映っている山岡を、バレないように観察している日下部が、頬を緩める。 (本当、甘い。…って、女子か!) コソコソと下着を脱いだ山岡が、キョロキョロした挙句、パッとタオルを取って必死で前を隠しているのまで眺めた日下部は、思わずプッと吹き出してしまった。 「っ?」 「可愛すぎ」 日下部の声と視線に、山岡は鏡越しに見られていたことに気づいてしまった。 「っ~!」 恥ずかしさからか、キッと日下部を睨んでタッと風呂場に駆け込んで行ってしまう山岡。それを見て、日下部が慌てて叫んだ。 「山岡、時計!」 多少の防水ではあるが、風呂に浸かって大丈夫なほどではない。 いきなり壊すな、と叫ぶ日下部に、山岡がバタンと風呂から出てきて、外した腕時計を棚にポンと置いて、また素早く風呂に消えて行った。 「っぷ、くっくっく…」 せわしない山岡が可笑しくて、そして無造作に置いたようで、きちんとディスプレイ部分が傷つかないように向きを考えて置かれた時計にホッコリして、日下部は笑った。 そうして自分も最後の下着を脱ぎ、裸で堂々と風呂に入っていった。

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