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第189話
その谷野が向かった先は、消化器外科病棟だ。
何故?と思いながらついてきた山岡と原は、いきなり殴り込みの勢いで、ナースステーションのカウンターをバンッと叩いた谷野に驚いた。
「ちぃ出せや」
「ちょっ…どこのチンピラさんですか」
谷野の暴挙に、山岡が後ろでワタワタと慌てていた。
「あ、とら先生。日下部先生なら、将平くんをあたしたちに託して、どこかに飛び出して行きましたけど…」
「はぁ?どこや」
「わかりません。なんか、親子がどうとか、兄弟がなんだかとか…」
謎です、と首を傾げている看護師に、谷野がニヤリと笑った。
「なるほどな。ちぃももう気づいたわけや」
「谷野先生?」
「したら行き先は、携帯か。ロッカールーム行くで」
連絡を取ろうとする、と言う谷野に連れられ、わけがわからないまま、山岡と原も、病棟の医師用更衣室に向かった。
果たしてそこに、日下部の姿はあった。
「ビンゴや」
「なっ、とら?山岡も原も…。どうしたんだ?」
お揃いで、と多少驚いている日下部の手には、プライベート用のスマホが握られていた。
「連絡取れたんか?」
「え?」
自分のロッカーの前に立っていた日下部に、ツカツカと近づいていきながら、谷野が首を傾げた。
「叔父貴やろ?犯人は」
「やっぱりとらもそう思った?」
微妙な笑みを浮かべる日下部に、山岡と原の視線が向いた。
「はぁっ。身内のどうしようもない話なんだけど…多分、あの子の父親っていうのは、俺の父親でもあると思う」
苦い笑みを浮かべて言った日下部に、山岡がポカンと固まり、原がはぁっ?と派手に首を傾げた。
「ちょっ、待って下さいよ。日下部先生の親父さんって…」
「うん、還暦過ぎてるよね…」
「はぁっ?え?マジっすか?」
え?え?とパニクる原の驚きは、常識的に考えてまともなものだろう。
「でもそれが、あの人やったらありえるんや」
「我が父親ながら、呆れてものも言えないよ…」
げっそりと溜息をつく日下部に、山岡の不安そうな目が向いた。
「あの子が、日下部先生と兄弟?でもパパはちーくんって…」
ポツリと呟く山岡に、日下部の苦笑が深まった。
「日下部千里(くさかべ ちさと)。俺の父の名だよ。くさかべちーくんだろ?」
あのクソ親父、と吐き捨てるように言った日下部に、山岡は複雑な表情を浮かべた。
「まぁそういうことだから。とりあえず、父に連絡を取ってみようとね」
携帯を示して言った日下部に、谷野の目が向いた。
「で、連絡取れたん?」
「ノー。まぁ、俺からの電話に簡単に出るとは思ってなかったけど…案の定すぎて嫌になる。仕方がないから、秘書から攻めるか…」
はぁっと溜息をつく日下部を、山岡は心配そうに見つめた。
その視線に日下部はすぐに気づく。
「なんかごめん。そういうことだから。すぐに話はつけるつもりだけど…向こうの出方次第ではね、なんとも」
まるで敵に対するそれのような物言いに、山岡はますます心配そうな目を向けた。
「山岡、そんな不安な目をしないで。ちゃんと決着つけるから。心配しないで待ってて」
ニコリと安心させるように微笑む日下部に、山岡は黙ってコクンと頷いた。
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