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第191話
一方、山岡と原がそんな呑気な話をしている頃、更衣室では。
「ほんま、千里おじさん、お茶目やな」
「そんな軽い言葉じゃおさまらないだろ。下手すりゃ孫だぞ?俺の子でもおかしくない年の兄弟とか…」
はぁぁっ、と深い溜息をつく日下部の肩を、谷野がポンポンと撫でた。
「まぁでも正直なところ、ホッとしとるんやろ」
自分の子ではなかったこと、と笑う谷野に、日下部は真剣な顔をして首を振った。
「いや、まったく安心できない」
「なんでや?」
「あのクソ親父の性格知ってるだろ?何で俺の住所を教えたんだ?何で将平くんを送り込んで寄越したと思う?あまりに作為的だ」
ギリッと奥歯を軋ませる日下部に、多少日下部の父を知っている谷野もまた、表情をあらためた。
「目的は…」
「あの人が興味があるのは、金と女。そして世間体」
ふっと蔑むように笑った日下部に、谷野はゆったりと口を開いた。
「山岡センセか」
確信的に笑う谷野に、日下部は静かに頷く。
「タイミング的にも、仕掛け方からも、1番有力な線だと思う」
クソッ、と吐き捨てる日下部に、谷野は力なく微笑んだ。
「ほんま、試練の人やなぁ。なんでなんやろ…。なんで山岡センセは、こないに神様に嫌われとんのやろ」
同情を映して揺れる谷野の瞳に、日下部は小さく首を左右に振った。
「逆だろ。好かれてるんだ。構い倒したくなるほどな」
「なんや神様は、好きな子構って意地悪しちゃう、苛めっ子かいな。ちぃみたいなやっちゃな」
ははん、と呆れる谷野に、日下部はそれはそれは綺麗に笑った。
「山岡に目をつける時点で間違いない」
一体何の自信だ、と思うような、自信たっぷりの日下部の発言に、谷野がずっこけた。
「なんやのそれ。そうやなくて!」
「あぁ。だから俺はその意地悪な神様とやらになんか、絶対にくれてやらん。どんな試練を寄越そうが、俺が隣にいる限り、山岡は必ず乗り越える」
一緒にな、と堂々と言い切る日下部に、谷野が呆れつつも頼もしそうな視線を向けた。
「まぁ神様も、取り合う相手がちぃじゃ、勝ち目ないわな」
微妙に外した信頼を向けながら、谷野はカラカラと笑った。
「ふん。まぁとりあえず、あの人と連絡を取れないことにはな…。あと山岡、今夜は帰らせる」
うちに、と言う日下部に、谷野もコクンと頷いた。
「それがええ。叔父貴の思うつぼになんかなんなや。おれはちぃらの味方やで」
「ありがとう」
ニッと笑った谷野が、拳にした手を突き出す。同じように拳を突き出した日下部と、お互いコツンとぶつけ合った。
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