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第194話
翌日。
やっぱり将平を連れて出勤した日下部は、たまたまフリーだった原に将平の世話を押し付けていた。
「は?あの、おれも自分の勉強が…。今日の午後、オペですよね?」
「ん?何?こんなにギリギリになって、まだ確認しないとならないことがあるの?怠慢だね」
ニコリと嫌味に笑う日下部に、原の目が泳ぐ。
「いや、きっちり頭に入っていますよ?いますけど…」
「じゃぁ午前中幼児1人の世話くらい、片手間にできるでしょ。ほら、小児科研修だと思えばいいよ」
サラリとわけのわからない言い分を放って、日下部は将平を原の方に押し出す。
「きっと気が合うよ。で、くれぐれも山岡先生に近づけないでね」
「は?え?」
「緊急が入ったら連絡して。山岡先生がやるなら、きみもオペに入りたいだろ?」
「それはもちろん!」
「じゃ、将平くん預かってくれる代わりに、無条件で前立ちやらせてあげるから。まぁ、山岡先生がいいって言えばね」
きっと山岡は、原にできないと判断したら、決して無理に前立ちに入れようとはしないだろうという信頼が日下部にはある。
だからの条件に、それでも原は勢いつけて頷いた。
「ぜひとも預からせていただきます!」
「ふふ、チョロい」
「え?」
「いや、何でもない。まぁ、適当に見てればいいから。並の5歳児より、よっぽどしっかりしてるから」
ジロッと将平に敵対心剥き出しの視線を向け、日下部がヒラリと手を振った。
「いい子にしてろよ。くれぐれも人のいない隙に、山岡先生を口説くなよ?」
「は?あの、えっと、おれはもう…」
「きみじゃない。そっちのガキ」
「え?」
「ベーッだ。子供扱いするなよな」
ツンと日下部から目を逸らして踏ん反り返る将平を、原が驚いたように見つめた。
「うわぁ、ミニ日下部先生だ…」
「原、そのガキ山岡先生に近づけたら、今夜寝られると思うなよ」
「は?え?や、嫌ですよ!ち、近づけません!誓います!」
結構な脅しをかまし、日下部はヒラリと白衣の裾を翻し、外来に向かってしまった。
今日の午前フリーのもう1人、山岡が、ナースステーションで派手なくしゃみをして看護師に心配されていた。
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