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第211話

「標準語、使えたんだ?」 ベッドの上でクスクス笑う日下部は、のした秘書を片手にぶら下げた人物に、悪戯な目を向けた。 「上手くできてたやろ」 いひひ、と笑う谷野は、スルリと秘書のベルトを外し、後ろ手に束ねて拘束し、両足もクローゼットの中から持ち出したバスローブのベルトで縛り上げてしまった。 「それにしてもちぃ、いい格好やな」 どSのちぃ様が緊縛されとる、と笑う谷野を、日下部がギロッと睨んだ。 「馬鹿言ってないで早く解いて。手が痺れてたまらない。トイレも限界」 「叔父貴も無茶しよるな」 「とらに言われたくないと思うぞ」 器物破損に秘書には傷害か?と笑う日下部に、谷野がげっそりとなった。 「弁償よろしゅう」 ニッと笑いながら日下部の拘束を解いてくれた谷野に、日下部は軽く手を振ってからベッドを下りた。 「どうせあの人の息がかかったホテルだろ?」 「せやな。傘下の系列や。おれが入り込んどるのも、もうバレとるで」 部屋に来るまでに手間取った、と言う谷野に、日下部は素早く頷いた。 「携帯と財布。それと上着…」 「揃っとる。手癖が悪くてすんまへん~」 ニッと笑う谷野の両手には、日下部のスマホと財布がそれぞれ掲げられていた。 「いつの間に…」 「そこに伸びとるおっちゃんが持っとったで」 床に転がした秘書を示して言う谷野に、日下部は苦笑した。 「この人、達人級の武道の腕前だぞ…」 「忘れたん?おれも一通りの武道はなんでもこなすで。ついでにルール皆無の喧嘩も上等」 「威張れない、それ」 偉そうに胸を張る谷野に笑って、日下部は素早くスマホと財布を受け取り、上着はクローゼットの中、と言う谷野に従い、それも回収した。 そのまま速攻でトイレを済ませた日下部が出てくるのを待って、谷野がドアに向かう。 「よっしゃ、逃げるで」 早う、と廊下に飛び出す谷野の後に、日下部も続く。 「うわ、なんだこれは…」 「うひょ。スプリンクラーまで作動したんか。ちぃっとやり過ぎたか?」 あはは、と笑っている谷野は、一体何をやらかしてきたのか。 「まぁええか。下は火災騒ぎで大混乱や。その隙に乗じて逃げるで~」 あっけらかんと笑いながら廊下を駆け、エレベーターに乗り、と誘導してくれる谷野について、日下部は難なくホテルから逃げ出すことに成功した。

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