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第214話

「んっ…ふぁぁぁ」 朝、目を覚ました山岡は、大きく伸びをした。いや、しようとして、両腕が何故か、万歳する形で、ベッドヘッドに括り付けられていることに気が付いた。 「ん?え?あれ?」 なんで?と、一瞬パニックになった瞬間、ぬっと目の前に人影が差す。 それが、ニコリと微笑んだ日下部のものであることを認識して、山岡はホッとした。 「おはよう、泰佳」 「おはようございます、日下部先生。あの、これ…」 ぐぐ、と両手首に巻かれた拘束を引き、なんなのかと日下部を見上げる。 けれども日下部は、にこりと微笑んだまま、山岡のその仕草を完全に無視した。 「さて、始めようか、お仕置き」 「え…?」 「俺を裏切って、知らない男とデートに食事。ホテル前の写真は真実?酔うなと言っていた酒も飲んで、酔っ払って帰ってきた」 「っ…?日下部、せんせ…?」 「裏切った、んだよな?俺を…」 ぎゅっ、と唇を震わせて、呻くような声を絞り出した日下部に、山岡の目が頼りなく揺れた。 「千洋?」 「っ、信じたい。信じていると思ってたんだ、俺は。山岡に関してあいつらが言っている話はあいつらが勝手に言っている作り話で。根拠もなにもない嘘で…」 「あの…」 「なのに、おまえから出てくる現実は、全部あいつらの言い分の方が正しく聞こえるような事実ばかりで…」 「え…?」 「見れば見るほど、考えれば考えるほど、あいつらの言っていることの方が正しくて、おまえは俺を…っ」 くしゃり、と綺麗な顔を苦しそうに歪めた日下部が、ポイポイッとローションにバイブ、枷とニップルクリップを、山岡の顔の横、ベッドの上に放り出した。 「っ!」 「なぁ、なんでたむちゃんとかいう男とホテルに入ったの?」 「え…」 「なぁ、なんで俺に黙って2人でそのたむちゃんとかいう男と出掛けて食事をして飲みにまで行っているの?」 「っ、それは…」 「なぁ、なんでこんなに楽しそうに2人で写メに映って、番号もメールアドレスも交換して、仲良さそうにしているの?」 「っ…」 ぐい、と突き付けられた携帯画面のツーショット写真に、山岡の目がフラフラと泳いだ。 「写真は真実だった?あいつらの言っていることが正しい?信じたい。信じたいのに、おまえがこれじゃぁ…俺はおまえを、疑うしかなくなる」 ギリッと山岡のスマホを握り締め、握力でそのまま破壊するんじゃないかというほど強く、日下部は握った拳を震わせた。 「っ、日下部先生っ、おれは…」 「すべてがあの人たちの狂言で、山岡を疑う余地なんて1つもないと思ってた。でっち上げの嘘だって…」 「ち、ひろ…?」 「なのになんで、おまえからは、あいつらの言い分が正しいような現実ばかりが飛び出すの?」 ハッ、と自嘲気味に鼻を鳴らした日下部が、転がっている道具類の中から、ローションのボトルを取り上げた。 「写真が正しい?あの人たちの言い分が真実?ここ、たむちゃんとかいう男にも使わせた?」 「っ、な、にを…」 「確認していいよな?おまえが俺を裏切っていないというのなら」 「っ、ちょっ、日下部先生っ!…っ、千洋ッ」 ぐいっと両足を持ち上げられ、ズルッとズボンを奪い去られた山岡が、焦って暴れる。 「なに?見られて困るの?他人の痕跡が残っているから?」 「ひっ、あぁぁ、やぁぁぁ…」 「何もなければ、潔白ならば、確かめられて困ることはないはずだろう?」 ガバッと開いた山岡の足を、開いた形のまま拘束した日下部は、眼下に晒された山岡の秘部をじっと見つめた。 「なぁ、山岡。ここ…調べても、なにも、出ない、よ、な?」 頼むから、信じさせてくれ。 そう苦しいほどに伝わってくる日下部の本心が、呻く声に現れて、山岡はふっと、全身から力を抜いた。

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