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第215話
「っ…」
クチュッ、とローションの滑りを帯びた指を蕾に差し込まれ、山岡の身体がピクリと震えた。
けれども山岡はギュッと唇を噛み締めたまま、大人しく日下部の行為を受け入れる。
「んっ、あっ、んんッ…」
グチュリ、クチュッ、と、日下部の指が蕾をさぐる不快感を、山岡は歯を食いしばって堪えていた。
「っ、傷も、蕾が腫れているようなことも、もちろん残滓も、なにもない」
「はぃ…」
「っ、だからと、おまえがあの男に、身体を許していない証明にはならないっ…」
苦しい、と喚く内心が痛いほどに伝わり、山岡はスゥッと静かな涙を一筋流し、ゆっくりと深い瞬きをした。
「ごめんなさい」
「ッ…」
ぽつりと落ちた山岡の声に、日下部がヒュッと息を飲んだ音が重なった。
「泰佳?」
「オレは、田村さんとホテルに行きました。街でぶつかって、お腹が痛いと苦しむから、介抱のために入りました」
「それをっ…どう、信じろとっ…」
「そう、ですね…。オレはその後、田村さんに友人になりたいと言われて、頷き、約束を交わし、携帯の番号も交換しました」
「っ、どうしてっ…」
ずるっ、と山岡の蕾から指を引き抜き、低い声で唸る日下部に、山岡は小さく深呼吸を1つした。
「嬉しかったんです」
「え…?」
「オレの手を、医者の手だって…田村さんが、言ったんです」
泣きながら、山岡は小さく小さく自嘲を浮かべて笑った。
「馬鹿、ですよね…。田村さんは、全然そんなつもりじゃなくて。ただ単に医者という職業のオレと握手できた~、ってだけで言った言葉なのに」
「泰佳…?」
「オレ…嬉しかったんです。友達になりたいなんて、言ってもらえたの、初めてで…。オレが医者ってこと、あんなに褒めてくれてっ…」
ギシッと、縛られた両手を小さく揺らして、山岡はしゃくり上げながら日下部を見上げた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、千洋」
「泰佳…」
「オレ、楽しかったっ…。友達って、交友って、こんな風に遊んだり、話したり…」
「泰佳」
「楽しかったっ。楽しかったんですっ、千洋…」
ごめんなさい、と泣きじゃくりながら唇を震わせる山岡に、日下部の顔が、苦し気に、辛そうに、ぐしゃりと歪んだ。
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