216 / 426
第216話
「っ、クソッ、あいつらは…」
「ち、ひろ…?」
「これも計算かっ」
口汚い言葉で罵る日下部に、山岡の目が不安そうに揺れた。
「まさか、そういう手段に出たとは…っ」
「あ、の…ちひろ?」
「クソッ!そうだよな…。おまえが浮気なんかするような人間じゃないことくらい、分かっているんだ。だけどこれは…いや、だからこそっ…」
ボスッとベッドを殴りつけた日下部に、山岡の身体がビクリと震えた。
「あいつらっ…」
ギリッと奥歯を軋ませて、ベッドを殴りつけた拳を震わせる日下部を、山岡がソロソロと窺った。
「ち、ひろ…?」
「ッ。山岡。おまえは、その男と街でぶつかって、腹痛を訴えたからホテルへ行ったと言ったな?」
「はぃ…」
「どうして病院へ連れて行かなかった」
スッと目を上げて山岡を睨みつける日下部に、山岡はオロオロと視線を彷徨わせた。
「番号もそうだ。ちょっと褒められたからって、友人になろうと誘われたからって、会ったばかりのよく知らない相手に、ホイホイと教えたんだよな?」
「っ、それは…」
「挙句、俺に黙って…俺が留守の休日に、その男と2人きりで遊びに出かけた」
「っ…」
ギリッと奥歯を軋ませた日下部に、山岡の目がストンと伏せられた。
「おまえがいくら浮気じゃないと言ったって、それを疑わせるに十分な行動を、おまえはしているんだよ」
「っ…はぃ…」
「俺は、おまえの交友関係を無理に狭めたいわけじゃないし、おまえの気持ちを蔑ろにしたいわけでもない。だけど、だけど…」
ぎゅっ、と拳を握り直して唇を震わせた日下部が、ジッと山岡を見つめた。
「おまえのしたことは、あまりに俺に、不誠実すぎやしないか?」
スッとすべての感情を消し去った、静かな日下部の声に、山岡がぎゅぅ、と目を瞑って頷いた。
「オレは…」
「山岡」
「っ、オレ…」
「山岡っ」
「っ、そ、の、通り、です…オレが浅はかでした」
「そうだな。反省が必要だ」
「っ、ふ、ごめっ、なさ…」
「お仕置きだ。いいな?」
「っ、はぃ。オレが千洋を裏切ったように見える振る舞いをしたのが悪かった…っ」
スン、と鼻を鳴らして頷く山岡を見下ろしながら、日下部は、フーッと長い吐息をついた。
「手も足もそのままだ。大人しく身体の力を抜いていろよ」
キラリと目を光らせた日下部が、その長くて綺麗な指先で、先程とは違うローションのボトルを拾い上げた。
ともだちにシェアしよう!