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第216話

「っ、クソッ、あいつらは…」 「ち、ひろ…?」 「これも計算かっ」 口汚い言葉で罵る日下部に、山岡の目が不安そうに揺れた。 「まさか、そういう手段に出たとは…っ」 「あ、の…ちひろ?」 「クソッ!そうだよな…。おまえが浮気なんかするような人間じゃないことくらい、分かっているんだ。だけどこれは…いや、だからこそっ…」 ボスッとベッドを殴りつけた日下部に、山岡の身体がビクリと震えた。 「あいつらっ…」 ギリッと奥歯を軋ませて、ベッドを殴りつけた拳を震わせる日下部を、山岡がソロソロと窺った。 「ち、ひろ…?」 「ッ。山岡。おまえは、その男と街でぶつかって、腹痛を訴えたからホテルへ行ったと言ったな?」 「はぃ…」 「どうして病院へ連れて行かなかった」 スッと目を上げて山岡を睨みつける日下部に、山岡はオロオロと視線を彷徨わせた。 「番号もそうだ。ちょっと褒められたからって、友人になろうと誘われたからって、会ったばかりのよく知らない相手に、ホイホイと教えたんだよな?」 「っ、それは…」 「挙句、俺に黙って…俺が留守の休日に、その男と2人きりで遊びに出かけた」 「っ…」 ギリッと奥歯を軋ませた日下部に、山岡の目がストンと伏せられた。 「おまえがいくら浮気じゃないと言ったって、それを疑わせるに十分な行動を、おまえはしているんだよ」 「っ…はぃ…」 「俺は、おまえの交友関係を無理に狭めたいわけじゃないし、おまえの気持ちを蔑ろにしたいわけでもない。だけど、だけど…」 ぎゅっ、と拳を握り直して唇を震わせた日下部が、ジッと山岡を見つめた。 「おまえのしたことは、あまりに俺に、不誠実すぎやしないか?」 スッとすべての感情を消し去った、静かな日下部の声に、山岡がぎゅぅ、と目を瞑って頷いた。 「オレは…」 「山岡」 「っ、オレ…」 「山岡っ」 「っ、そ、の、通り、です…オレが浅はかでした」 「そうだな。反省が必要だ」 「っ、ふ、ごめっ、なさ…」 「お仕置きだ。いいな?」 「っ、はぃ。オレが千洋を裏切ったように見える振る舞いをしたのが悪かった…っ」 スン、と鼻を鳴らして頷く山岡を見下ろしながら、日下部は、フーッと長い吐息をついた。 「手も足もそのままだ。大人しく身体の力を抜いていろよ」 キラリと目を光らせた日下部が、その長くて綺麗な指先で、先程とは違うローションのボトルを拾い上げた。

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