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第218話

一方リビングに出た日下部は、ちょうどタイミングよく鳴り響いたインターフォンに、訪問した谷野を迎え入れた。 「おはよ~さん」 「おはよう」 スタスタとリビングまで上がってきた谷野が、遠慮なくソファにドサッと座る。 コーヒーでも淹れようと、キッチンに向かいながら、日下部はそんな谷野をチラリと見た。 「タクシーで来た?」 「まぁな」 「とらの方までは手、回ってない?」 父の、と言う日下部に、谷野は軽く首を傾げた。 「昨日のアレで目ぇつけられとるだろうけどなぁ、今のところは」 大丈夫、と笑う谷野にホッとしながら、日下部はキッチンに立った。 「ブラックでいい?」 「ん。ところで、山岡センセは?まだ寝てるん?」 一緒に話を聞いたほうがええんちゃう?と首を傾げる谷野に、日下部がフッと鼻を鳴らした。 それがやけに不敵な笑みであることに谷野は気づき、嫌な予感に顔を歪めた。 「山岡なら、向こうでお仕置き中」 クスッと笑った日下部に、谷野は聞かなきゃ良かった、と後悔した。 「オシオキて、こんな朝っぱらから…。山岡センセ、また何をやらかしてん…」 可哀想に、と言いながら、寝室のドアをチラリと見た谷野に、日下部はコーヒーカップを持ってリビングに戻ってきた。 「その辺りの話もとらにしておかないとな」 どうぞ、とコーヒーカップを差し出した日下部から、それを受け取り、谷野が怪訝な顔をした。 「なんや、叔父貴絡みか」 賢く鋭い谷野があっさりと察するのに頷いて、日下部もソファにストンと腰を下ろした。 「俺に揺さぶりをかけたり、拉致してくれたりしている裏で、山岡には山岡への罠を仕掛けている」 「罠?」 「あぁ。俺が将平くんの母親と会っていた隙に、山岡に田村とかいう男を接触させてる」 「抜け目ないなぁ…」 「まったくね。そして俺が拉致られている間にその田村とやらと山岡はデートさ。大方、山岡を落として俺から奪えとでも命じられているんだろう」 馬鹿らしい、と吐き捨てるように言う日下部に、谷野は苦笑した。 「ほんなら昨日の夜のあれは…」 「田村とやらと楽しく焼肉して、飲んだ帰り」 「ははん。それで浮気同然だ…とでも責めたちぃに、山岡センセは現在いけずされてるわけか」 納得、と笑う谷野に、日下部がニヤリと笑った。 「ご名答」 「わからいでか」 フッと遠い目をする谷野に、日下部は微笑んだまま、目だけをスッと真剣なものにした。 「友達だと、山岡は言ったんだ。きっと山岡のことは徹底的に調査されてる。だから向こうは、山岡のツボを確実に突いてくる」 「せやろな」 「山岡が、決してそういう意味で別の男に落ちるとは思わないけれど…」 「あぁ」 「違った意味では心を揺さぶられる。その、純粋な好意だと山岡が感じた田村とやらの言動がすべて計算で、罠だと知ったら…」 「山岡センセは、傷つくやろな」 「あぁ、だから、どんなに狭量な男だと思われてもいい。独占欲が強くて、我儘な駄々だと思われてもいいから…」 「山岡センセと、田村の間は引き裂かなあかんやろなぁ。まぁ山岡センセはちぃをそんな風なは思わんやろうけど。まったく叔父貴にも参ったもんやな」 はぁっと溜息をつく谷野は、相変わらず厄介な相手だ、とげっそりしていた。

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