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第221話

日下部は、完全に意識をなくした山岡の身体をシーツに包み、風呂に連れて行った。 リビングを通過した際、谷野の白い視線を感じたが無視をして、山岡が出したものやローションで汚れた身体を清めてやった。 風呂から上がる頃には山岡の意識も戻り、恥ずかしそうに遠慮する山岡に服を着せ、また抱き上げてリビングに出た。 「よっ、お邪魔しとるで」 リビングで勝手に寛いでいた谷野が軽く手を上げた。 日下部にソファに下ろされながら、山岡はパタパタと慌てた挙句、ペコリと頭を下げた。 「あ、その…おはようございます…」 怠そうに力無い笑顔を浮かべる山岡を見て、谷野が苦笑する。 「無理せんでええ。横になり」 「いえ、あの、その…」 カァッと顔を赤くして慌てる山岡に、日下部が隣に座りながら笑った。 「身体辛いよな?ほら」 グイッと肩を引き寄せ、日下部に寄り掛かるようにされた山岡が、照れながらも大人しく従った。 「大分泣かされたみたいやな。そんでもちぃがええんか…」 真っ赤に泣き腫らした山岡の目を見ながら、谷野は、どMやなぁ、と笑ってしまっている。 「な…えっと、その…」 クテンと日下部に凭れたまま、山岡はフラフラと目を彷徨わせた。 「ん?」 「いえ…。いい、です」 スッと床に視線を落として、ポツリと囁いた山岡に、谷野の目が細くなり、日下部の表情が嬉しそうに笑み崩れた。 「千洋が、いいんです…」 小声で繰り返した山岡を、日下部がさらに強くキュッと抱き寄せた。 「守らな…な」 小さく呟いた谷野に、日下部が頷く。 ん?と目を上げた山岡が、不安そうに日下部の袖をツンと掴んだ。 「ん?どうした」 「お父さん?」 山岡は、馬鹿ではない。日下部と谷野の雰囲気から、簡単に現状を察する。 「まぁね…」 「話…上手く行かなかったんですか?」 気怠そうにしながらも、一生懸命見上げてくる山岡に、日下部は小さく苦笑した。 「あの人とまともな会話が成立しないのは昔から。そもそも、睡眠薬使って人を拉致して監禁するような男と、初めから話が通じると思った俺が馬鹿だった」 ハッと笑って吐き捨てる日下部に、山岡の目が困ったように揺れた。 「睡眠薬?監禁?」 「あぁ。昨日な。幸い、とらのおかげで逃げ出せたけど。決着はついていないし、向こうは諦めてないだろう」 「そう…ですか」 「だから、山岡の方に手を出してこないとも限らないし、とらに山岡についてもらうことにしたから」 ニコリと微笑む日下部に、谷野が得意げに胸を張った。 「これでも腕に自信はあるで。よろしゅうな」 ニッと笑う谷野に、山岡は薄っすらと微笑んだ。 「強いんですか?谷野先生」 「強いで。まぁそういうことやから、外出する際は声かけてな」 親指を立てて微笑む谷野に、山岡はコクンと頷いた。 「いい?山岡。絶対に、父に近づくな。顔を見かけたら、すぐ逃げること」 ジッと真剣な目をする日下部に、山岡はやっぱり曖昧に頷いた。 「山岡。本当にあの人は、目的のためならどんな手段を取ってくるかわからない人なんだ。頼むから甘く考えないでくれ」 きちんと約束してくれ、と強要してくる日下部に、山岡は嘘になるとわかりながら、静かに首を縦に振った。

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