222 / 426
第222話
「よし。それじゃ、時間も微妙だし…朝食っていうより、昼にするか」
壁の時計を見ると、11時になろうとしているところだった。
「あ…」
ふと山岡が小声を上げて、日下部をフラリと見た。
「ん?あぁ、腕時計?風呂入れるのに外して、脱衣所のいつものところ」
ソファから立ち上がりながら、日下部が山岡の疑問を勝手に推察していた。
「いえ、その…」
「ん?」
チラッと窺うように見てくる山岡に、日下部はもしや、と思って微笑んだ。
「バレちゃった?ペア」
クスクス笑う日下部に、山岡がハッと目を見開いた。
「やっぱりそうなんですか?原先生が…」
言っていた、と呟く山岡に、日下部は可笑しそうに笑った。
「まぁ、俺の自己満足なんだけど。多分、そこのとらに見せても、分からないと思うよ」
ふふ、と笑いながら、日下部はキッチンへ向かってしまった。
「あ?なんのことやねん」
いきなり名前を出された谷野が首を傾げているのを見て、山岡はかったるそうにソファから立ち上がり、ノロノロと脱衣所に向かった。
「山岡センセ?」
少ししてリビングに戻ってきた山岡の腕には、日下部からプレゼントされた腕時計がはまっていた。
「だからなんやねん」
ストンとソファに戻って、腕を突き出してみる山岡に、谷野は怪訝な顔をするばかり。
「高そうな時計やな。なんや、それがどないしたのや」
は?と首を傾げている谷野に、山岡はホッと微笑んで、腕を下げた。
腕時計は服の袖に隠れて見えなくなる。
一連の様子をキッチンから眺めていた日下部が、クスクス笑った。
「ちなみにとらはどんなのしてたっけ?」
昼食を作りながら、カウンター越しに声を放つ日下部に、谷野の視線が向いた。
「おれ?おれはジーさまや」
「なるほど。研修医並みだな」
とららしい、と笑う日下部に、谷野がムッと口を尖らせた。
「だって落としても汚しても安心やし」
「落とす?」
腕にはまっているものをどうして…と苦笑する日下部に、谷野はケロッと笑った。
「オペや処置の度に外すの面倒やろ。不衛生だし。だからって持ってないと死亡宣告困るし。せやから基本、ポケットの中やで」
どうやら山岡派らしい谷野に、山岡は激しく同意して頷き、日下部が苦笑していた。
そうして、日下部が作ってくれた料理が整い、3人はのんびり昼食を済ませた。
今日は日下部も山岡もオフのため、谷野は食事を済ませて帰って行った。
ともだちにシェアしよう!