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第223話
翌日、朝は日下部と一緒に出勤した山岡は、特に何事もなく、病棟にたどり着いていた。
「あ、日下部先生、山岡先生、おはようございます」
お揃いで、と笑う看護師に微笑んで、日下部がナースステーションの椅子についた。
「今日は将平くんいないんですね」
「ん?あぁ、あの子なら、もう帰したよ。元々ちょっと預かっていただけだし」
のんびりとカルテを開きながら笑う日下部の後ろを、山岡がスルリと通り抜けた。
「あれ?今日、俺と山岡先生がフリーだっけ?」
奥のデスクにあるパソコンに向かった山岡を見て、日下部が首を傾げた。
「ええ」
まぁ珍しいか、と思いながら振り向いた山岡に、日下部がニコリと微笑んだ。
「急患が来ても安心だ」
「来ないにこしたことはありませんよ」
何言ってるんですか、と苦笑する山岡から、シラッと視線を逸らして、日下部はのんびりカルテのチェックを始めた。
そんなこんなで、外来の診察時間が始まり、医局に移動した山岡と日下部は、のんきにそれぞれ自分の書類仕事をしていた。
ふとそこに、ダンダンとノックにしては激しい、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「びっくりした・・・」
「何事?」
山岡が、驚いて手元の書類から顔を上げ、日下部が怪訝な顔をしてドアを見つめた。
「はぃ?」
とりあえず山岡が、ドアを開けに歩いて行く。
ヒョコッと顔を出した山岡に、ドアを叩いた主である病棟の看護師が、焦った表情で口を開いた。
「山岡先生っ、救急にすぐ来て欲しいそうですが…」
どうやらナースステーションに連絡があったらしく、看護師が慌てていた。
「急患?」
日下部も椅子から立ち上がり、入り口の方に歩いてきた。
「はい。吐血だそうです。専門の外科医じゃないと無理だと…消化器外科で対応してもらえないかって…」
どうしましょう、と困惑している看護師の横をすり抜けて、山岡が廊下に出た。
「日下部先生、行きましょう」
「了解」
パッと廊下を早足で歩き始めた山岡を、日下部も追った。
「吐血…ね」
「出血性胃炎か、マロリーワイスか…消化性潰瘍もありですね…」
「救急でヘルプ呼ぶってことは、相当だぞ。食道静脈瘤破裂とか。緊急オペが必要かな~」
スタスタとエレベーターに向かいながら、山岡と日下部の表情が硬くなっていた。
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