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第224話
そうして急げる最大の速さで救急室に飛び込んだ山岡は、騒然となっている室内で、急患の前で叫んでいる医師を見つけて素早く近づいた。
「消化器外科、山岡です。状況は?」
「山岡先生!あっ、日下部先生も」
処置に当たっていた医師が、山岡と日下部の到着を見てホッとしたように小さく頭を下げた。
「腹部単純X線の写真がそこです」
シャウカステンに並べられたレントゲン写真にチラッと目を向けて言った医師に、日下部が素早くそちらに足を向けた。
「穴は見えないね…内視鏡は?」
「それが、出血が多すぎて何も見えなくて…」
これです、と画面を向けた医師に、山岡の眉が寄った。
「うわー、本当見えないな。アナムネは…」
「胃潰瘍だそうです」
「吐血しっ放し…」
「山岡先生どう?」
山岡たちの側に来た日下部も、内視鏡の画面を見る。
「見えない…。これは動脈破れてるな。とりあえず…」
その時。
「出血性ショックですっ!」
スタッフが叫んで、バタバタとしていた室内がさらに騒がしくなった。
「チッ。胃洗浄してる余裕ない」
「出血箇所も特定できません…」
「内視鏡で止血は無理だな」
「厳しいですね。エタノール局注!」
硬い顔をして頷き合う山岡と日下部の判断や指示の声が飛ぶ。
「止まらない…血圧は?」
「70/40!低下止まりません」
「開けるか」
「ですね」
「緊急開腹オペ!オペ場押さえて。すぐに運んで」
目配せし合った山岡と日下部は、言うが早いか、パッと身を翻した。
「日下部先生切ります?」
運び出されるベッドを追って走りながら、日下部と山岡がすでに段取りを話し合う。
「そうだな…。山岡先生、前立ちしてくれる?」
「もちろんです」
バタバタと廊下を走って、2人は手術室棟に入った。
手前のロッカールームで、素早く着替えを済ませる。
並んで手を洗いながら、逸る気持ちを抑え込む。
手から肘まで綺麗に洗い上げた2人が、両手を上向きに掲げ、ガウンを着せてもらう。
バタバタとオペ看がせわしなく動き回り、麻酔科医が麻酔を始めている。
そうして準備が整った室内に入った2人は、早速手術台の前に立って、互いを見て1つ頷き合った。
「開けるぞ」
「はぃ」
スッとメスを入れた日下部の手元を、山岡もジッと集中して見つめる。
「血液吸引!」
「出血箇所探して」
「ボードに出血量書いて下さい」
真っ赤なだけの術野に、緊張を走らせながら、山岡が集中して血管をチェックしていく。
「ない…」
日下部の顔が引き攣る。
「これだけ出血してるのに…ないわけない」
「血液吸引!ガーゼ!」
「出血2000超えました」
「輸血急いで!ガーゼ!」
焦りが浮かび始める日下部や麻酔医の叫びが響く中、山岡はジッと血管を探っている。
「くそ。吹いてるはずだぞ?どこだ…」
ジリジリと日下部が焦り出す中、ジーッと集中していた山岡が、パッと顔を上げた。
「ここだ」
ズボッと手を突っ込んだ山岡が、グッと力を入れた。
「お…」
「血圧低下止まりました」
「出血も」
「日下部先生」
「あぁ、塞ぐよ」
ホゥッと安堵の空気が漂う手術室内で、その後は順調に手術が進み、終了した。
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