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第225話
「お疲れ様でした」
「お疲れ様。本当、すごいな」
ガウンを脱ぎ、帽子も脱ぎ捨てて、術衣だけになった2人が、病棟に戻りながら微笑み合っていた。
「何がですか?」
「いや、本当、冷静っていうか。あの状況でまったく動揺しないのな」
焦りすら感じなかった山岡に、日下部は感心の表情を浮かべていた。
「日下部先生だって。見事な手際」
すごいのはそっちでしょう?と笑う山岡に、日下部はクスクス笑った。
「どんだけ場数踏めばあんなに落ち着いていられるの?」
「場数…。確かに、俺のオペ経験数は平均より大分多いかもしれませんけど…」
「うん」
「1番オレを落ち着かせているのはね、日下部先生なんですよ?」
ニコリと笑う山岡に、日下部はえ?と目を見開いた。
「目の前にいる執刀医を信じているから…オレが見つけさえすれば、日下部先生が必ず手術は成功させてくれるって思うから、オレは落ち着いて自分にできることをやれます」
「っ…」
「スタッフも、信じていますから。麻酔医が、オレたちが止血できるまで必ずもたせてくれるって、信じてます。器械出しさんも外回りさんも、みんな1つの命を掬い上げるために全力を出してくれるって…オレはオペ場に一緒にいるみんなを、信じて頼っているだけです」
だから慌てたりしない、と堂々と言う山岡に、日下部は優しく微笑んだ。
「でもやっぱり。そこまでなれるのに、どれだけの経験をしたんだろうな…」
「日下部先生?」
「やっぱり俺は、山岡先生には敵わないな~」
クスクス笑う日下部に、山岡はコテンと首を傾げた。
「失くしたくないなぁ」
「え?」
「俺はやっぱり医者だな、と思ってな。山岡先生とこうして並んで立てる場所を…共に戦える道をずっと歩いていきたい。絶対に譲りたくはないな」
急にポツリと言い出した日下部に、山岡はキョトンと目を丸くした。
「どうしたんですか?」
不思議そうに見つめる山岡に笑って、日下部はポンと山岡の肩を叩いた。
「俺が欲しいものも、あればいいものも、ただ1つだってこと」
ふふ、と笑う日下部の言葉の意味がわからず、山岡が変な顔をしたところで、ちょうど病棟ナースステーションについた。
「お疲れ様です」
たまたまいた看護師の言葉に頷いて、中に入った日下部が、椅子に腰を下ろす。
「もうこんな時間か。昼にするか…」
後を追った山岡も座ろうとした瞬間、ビーッとナースコールの音が響いた。
「はい、どうしました?」
『急変ですっ!担当日下部先生だけど…まだオペかなっ?』
スピーカーにされた機械から病室にいるらしい看護師の声が聞こえた。
「すぐ行くって言って」
聞こえた日下部がパッと椅子から立ち上がるのを、コールを取った看護師が見て頷く。
「ごめん、山岡先生。午後イチ、オペだよな?先に昼食べちゃって」
待たないで、と言いながら駆け出していく日下部を、返事をしながら山岡は見送った。
「大変だなぁ…」
緊急オペ後に今度は急変か、と、たまにこうして重なるバタバタに苦笑しながら、山岡はとりあえず売店に行くことにした。
「まぁ午後はオレも大変か…」
少々難しい手術を控えている山岡も、自分に苦笑しながら、昼を買いに廊下をのんびり歩き始めた。
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