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第227話

「山岡センセ」 不意に、ポンと肩を叩かれて、山岡はビクリと身を竦めた。 「なに驚いとんのや」 「っ、谷野先生…。いえ…」 振り向いたそこにいた谷野に愛想笑いを浮かべた山岡に、谷野はスウッと目を細めた。 「なんであの人とおったんや」 ジッと見つめてくる谷野に、山岡はハッとした。 「見て…」 「叔父貴の片腕やろ、さっきの」 へっと吐き捨てる谷野に、山岡は隠しても無駄だと頷いた。 「さっそく山岡センセにちょっかいかけてきたんか。院内でとは、油断したな」 さすがにガードできん、と溜息をつく谷野に、山岡はストンと俯いた。 「谷野先生…あの…」 ポソリと呟いた山岡に、谷野は話を察して、クイッと廊下の先に顎をしゃくった。 「カンファルーム行こか。おれが午後から使う部屋やから、誰も来いひん」 昼も食べなあかんやろ?と、山岡が手に下げた売店の袋を見て、谷野が笑った。 山岡は黙って頷いて、谷野の後に続いた。 この階は、検査室の他に、相談室やカンファレンスルームが主にある階だ。 そのうちのひと部屋に入った谷野を、山岡も追った。 「まぁ座りぃ」 「はぃ…失礼します」 「食べながらでええよ。術衣ちゅーことは、午後からオペなんやろ?」 コクンと頷いた山岡に笑って、谷野も適当な席に座った。 それを見て、山岡がさっそく口を開いた。 「あのっ、谷野先生」 「なんや、勢い込んで」 「お願いがあります」 ジッと谷野を見つめて言う山岡に、谷野はその先を察して苦笑した。 「なんやねん…。山岡センセも懲りないなぁ」 「っ…まだ何も…」 「分かるっちゅーねん。センリの秘書と会うたこと、ちぃに黙っとけってゆうんやろ?」 わからいでか、と鼻で笑う谷野に、山岡の目が丸くなった。 「どうせアレは、叔父貴の呼び出し状でも携えてきたんやろ。行く気か?」 なんでもお見通しらしい谷野に、山岡はギクリとしながらも、迷わず頷いた。 「はぁっ。バレたらちぃに怒られるで」 呆れたように笑う谷野に、山岡は真剣な顔をして頷いた。 「覚悟の上です」 はっきり言い切る山岡に、谷野は困ったように苦笑した。 「それ見逃したら、おれも叱られるんやけど」 それでもか?と言う谷野に、山岡の目がフラリと泳いだ。 「っ…それは…。た、谷野先生は、何も知らなかったことにして下さい。何も見なかった。聞かなかった…」 嘘をついてくれ、と強要してくる山岡に、谷野はその覚悟のほどを悟った。 「あんたみたいなええ人が、人を欺けと言うには、どんだけの思いをすればええんやろな。そないな負い目を背負ってでも、言うか」 「はぃ。せめてオレ1人が罪を負うべきですから」 怒られるのも、もしかして嫌われてしまうかもしれないのも、自分だけでいいと言う山岡に、谷野は諦めたように笑った。 「たまたまこんな階にいるんやなかった」 ははっと笑う谷野に、山岡は申し訳なさそうに首を竦めた。 「でも見てもうたからには、知らんかった振りは無理や」 「谷野先生!」 「せやから共犯になってやる」 ニッと笑う谷野に、山岡は目を丸くした。 「でもそれじゃぁ…」 「まぁ、叔父貴と山岡センセが接触したら、100パーちぃにバレるやろな」 「っ…そしたら…」 「一緒に怒られてやるわ」 ケロッと言う谷野に、山岡の目がフラリと動揺を映した。

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