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第229話

そうして結局5時間超えをした山岡のオペは、夕方過ぎに終わりを告げ、いったん病棟に戻った後、着替えと支度を済ませ、山岡はふらりと病院内に出て行った。 日下部が医局に詰めていたのは確認済みだ。 原に絡まれていたから、当分医局から出てくることはないだろう。 山岡は適当に検査室のあるエリアをブラブラしながら、のんきに時間を潰す。 そのまま無事定時を迎え、山岡はフラリと病院を出て行った。 向かったのは、昼間秘書に渡された紙に書かれた店だ。 タクシーの運転手に店の名前を告げれば、知っている様子でどんどんと車を走らせてくれた。 ドキドキと緊張してくる気持ちを落ち着かせるように深呼吸しながら、ぼんやりと流れていく車窓からの景色を眺める。 30分弱で到着したそこは、立派な構えの料亭のようだった。 「っ…」 格式高そうな店構えに怯んでいた山岡は、ふと後ろで止まった車の気配に気づいて振り返った。 車種などには詳しくない山岡でも知っている高級国産車から、昼間の男性が下りてくる。 ぼんやりとそれを見つめている山岡の視線の先で、後部座席のドアを恭しく開けた男性の横から、綺麗に磨かれた革靴を履いた足が現れた。 「……」 コツ、と音を立てて下り立った、質のよさそうなスーツに身を包んだ、日下部によく似た男。 ひと目で日下部の父だとわかる容姿に、山岡の心臓がドクリと跳ねる。 失礼にもその男を凝視していた山岡に気づいた男の顔が、ニコリと、意地悪をするときの日下部と同じ種類の笑みを浮かべた。 「待たせたかな?」 笑顔なのだけど、その威圧感が半端ない男の姿に、山岡は無言でフルフルと首を振った。 「まぁまだ約束の時間には間がある」 ゆったりと足を踏み出しながら笑う男から、山岡は目が離せない。 「中へ」 どうぞ、と差し出された手に首を振って、山岡はオドオドと道を開けた。 「そう怯えなくても。取って食いはしないよ」 ふふ、と可笑しそうに笑う表情までもが、日下部にとてもよく似ている。 慣れた足取りで料亭の中に入っていく男を見つめてしまっていた山岡を、後ろに控えていた秘書の男性がそっと促してくれた。 「山岡さんも、どうぞ中へ」 「あ、はぃ…」 日下部の父の姿が遠ざかってようやく、山岡も息が吸えるような気がした。 ギクシャクとぎこちない動きで千里の後を追った山岡は、料亭の奥まった個室に案内され、またも緊張に顔を強張らせていた。

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