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第231話
「きみはそうして、以前にも1度、巨額の遺産を相続しているね?」
ニヤリ、と笑う千里の言葉に、山岡の身体がビクリと震えた。
「悪いがきみの身上は調べさせてもらったよ。親もいない、身内もいないきみがね。よく考えたと思うよ。どこぞの大学教授の養子に入って、莫大な遺産を手にするなんてね。その綺麗な顔と、身体を使って誑し込んだか」
やるね、と笑う千里に、山岡はただフルフルと首を振った。
「今度もまた、私に目をつけ、息子がいると知って、千洋を誑し込んだのだろう?」
天才だ、と笑う千里に、山岡はガバッと顔を上げた。
「違います!オレはっ…失礼ですが、あなたのことを、つい最近まで知りませんでした」
「口では何とでも言える」
「っ…。本当に、オレはただ…」
「ただ?」
「ただ、日下部先生が好きなだけです…」
それこそ、日下部がたとえ何者でも、山岡は想いが揺るがない自信がある。
けれど確かに千里が言うように、目に見えないそんなものを納得させようというのは無理なのかもしれなかった。
「っ、だから…」
そこまで考えたところで、山岡は谷野が言っていた、日下部の覚悟の意味がはっきりとわかった。
「なんだね?」
「日下部先生は、それを証明するために…あなたを…」
切り捨てるつもりなのだ、と思った。
父を、センリを、家族を、それを捨ててでも山岡への愛を選ぶ。
父から、センリから、家族から自分を切り離した、ただの『千洋』になっても、山岡は真っ直ぐに側に居続けるから。
「駄目だそんなの…」
1人で勝手に呟き、1人でブンブンと首を振る山岡に、千里の怪訝な顔が向いた。
「きみは一体何を…」
「日下部先生にとって、あなたはしがらみでしかない…」
とても辛そうに、悲しそうに微笑んだ山岡に、千里の鋭い視線が突き刺さった。
「たかが男娼もどきが何を生意気な」
「オレは、千洋に、あなたを失わせたいんじゃないんです…」
小さく首を振る山岡に、千里の冷ややかな目は変わらなかった。
「ふん。何が言いたい」
「っ、日下部先生は…千洋さんは、あなたと絶縁するつもりです」
真剣な顔をして言った山岡に、千里はハッと笑い声を上げた。
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