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第236話
「……?」
「まだ間に合う、だと?やはりきみは何もわかっちゃいないよ」
ハッと馬鹿にしたように吐き出す千里に、山岡の目がゆっくりと丸くなっていった。
「今さら、千洋と一体何を分かり合えと言う。千洋は、反抗心から選んだだけの医者にまだしがみつき、やめろと言うきみとの交際も、反発して耳を貸しもしない。センリのトップの椅子に座ることが、なにより千洋のためだというのに私の話など…」
「っ、だ、から、それをきちんと話し合って、お互いに理解…」
「そんな時間は、ない」
ふと、緩やかに口角を上げた千里の、その瞳の中に、山岡はよく知る切ない色が揺れたことに気づいてしまった。
「っ!あ、なた、は、まさか…」
「ふん。今更何を言ったところで、千洋はもう私に心など開きはしない。それに私もそんなもの望んじゃいない」
「っ…待って、待ってください。あなたは…」
「利己的な!…利己的な押しつけでいいんだ。どんな強引な手段を使ってでも、千洋には私の跡を継がせる。きみも、千洋の感情も、すべて排除して…」
ジロッと山岡を見る千里の目だけれど、山岡はただ静かにその視線を受け止め、ゆっくりと深い瞬きをした。
「オレ…その目を知っています。自分の命の期限を見つめる、その目を…」
かつての山岡氏と重なる瞳を持つ千里に、山岡はポツリと呟いた。
「今、あなたが焦っているのは…急に千洋を欲するのは、あなたが命の終わりについて考え始めたからですね…」
「っ!」
「自分の命が無限でないことに、気がついた…。あなたは、病を患っている」
ギュッと眉を寄せて言い切る山岡に、千里の口元がグニャリと歪んだ。
「ハッ。さすが天才と、褒め称えて欲しいか」
「日下部さんっ!」
「だとしたら、なんだ。私は自分の命が永遠にあるものだと思っているほど、愚かではないよ」
投げやりに、けれど小さく震えた千里の声の意味は、山岡にははっきりと分かっていた。
「誰だってわかっている、『いつか』訪れるかもしれない死より、あなたが感じているそれは、もっと切実だ」
「っ…」
「オレは、医師です」
ジッと真っ直ぐに千里を見て言った山岡に、千里の張り詰めていた空気が、フラリと揺らいだ。
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