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第257話※
「ふっ、すご。倒錯的。白衣着たままとか、たまらないね」
そそる、と囁く日下部に、山岡の身体がビクッと震えた。
「あ…や…」
医者であることとか、勤務中だとか、ここがどこなのかとかを一気に意識させられ、途端にイヤイヤと首を振る山岡に、日下部は笑う。
「背徳感が燃えるよね」
さすが、どSの変態様。この状況をよくも楽しめると思うような日下部の発言に、けれども山岡も流されてしまう。
「んっ…」
無意識に、中心に触れた手が、自分のいいところを見つけて擦り上げる。
チュクチュクと音を立て始めた愛撫は、山岡が感じている証拠か。
「あ~…」
ジッとそんな山岡の痴態を見つめていた日下部が、微妙な声を上げた。
「っ?」
チラリと日下部を見てしまった山岡が、その壮絶な色気を放つ日下部の表情に、ゾクリと鳥肌を立たせた。
同時にまた中心から、タラタラと快楽の雫が溢れ出す。
「やば」
山岡の潤んだ瞳も、嫌だと言いながらも快感を追いかけてしまう貪欲さも、自身の手で育て上げ、解放を求めて震える中心も、堪えきれずに溢れる快楽の証も、全てが日下部の性感を刺激し、日下部はたまらない欲情がわいてくるのを感じた。
「ん~」
けれどもさすがにここで抱くわけにはいかないし、と悩んだ挙げ句、日下部はすっかり自慰にふけっている山岡をチラリと窺った。
荒い吐息を吐きながら、自分を必死で慰めている山岡を見て、日下部はニコリと悪戯な笑みを浮かべた。
「ねぇ、泰佳。口、いい?」
中心を擦りながら、山岡が日下部の声にフラリと目を上げた。
「んぁ…?ちひろ?」
なに?とすでにわけがわかっていなさそうな山岡に微笑んで、日下部はヒョイッと山岡を抱き上げてしまった。
「っ?!なに…」
自身を握ったままパニックになる山岡にふわりと微笑んで、日下部はそのままソファの方に移動した。
そうしてストンと山岡を床に下ろして、自分はその目の前のソファに腰掛けた。
「千洋…?」
なに?と首を傾げる山岡の前で、ズボンの前をくつろげた日下部が笑う。
「泰佳があんまりいやらしいから、これ」
どうしてくれるの?と半勃ちになった自身を示して笑う日下部に、山岡はぼんやりとした目を向けた。
「ここでして?」
ここ、と言って山岡の唇をスゥッっと指で撫でた日下部に、ピクンと肩をふるわせた山岡が、コクンと頷いた。
「ふふ、いい子」
「いい子って…」
トロンとした目を向けてくる山岡の、その中に欲情の光があるのを日下部は見逃さない。
「んぁっ…」
日下部は、そっと唇を近づけてきた山岡の口内にグイッと自身の雄をねじ込んだ。
山岡の眉が、苦しさからかギュッと寄る。その切ない表情が、日下部をさらに煽り立てる。
「っ…」
「んっや…ふぅん、んんっ…」
口の中でさらに大きさと重量を増した日下部に、生理的な涙をポロポロと流しながら、山岡は必死で舌を動かし始めた。
「ん、いいね。泰佳、こっちもお留守にしたら駄目だよ」
日下部への口淫に意識の全てが向いてしまった山岡の、止まってしまった自慰の手を示す。
「んっ…ぁ、っは…」
日下部の声に素直に自身を擦る手も動かし始めた山岡に、日下部の目が満足そうに細くなる。
「んぁ…ふっ、んっ…」
鼻にかかった吐息を漏らしながら、日下部の中心を必死で舐める。
見下ろす日下部の目には、頭と一緒に腰を揺らしながら、自身を扱いている山岡の様子が見える。
「ふふ、俺のを舐めながら自分も感じちゃう?どMだね」
「んっ、ぁ…ふぁっ…」
コクコクとわけもわからず頷いている山岡の頭の動きに、日下部がウッと声を詰まらせた。
「反則、それ」
ジュポジュポと音を立てて出し入れされるペニスが気持ちよくて、さすがに日下部の目から余裕が減っていく。
「っく、悪い…」
じれったくもどかしい舌使いに焦れた日下部は、決定的な刺激を求めて腰使いを荒くした。
同時に山岡の髪に指を絡ませ、頭をグイと押さえつける。
「んぐ…あ」
山岡の口内を乱暴に犯すように激しく動き始めた日下部に、喉の奥を突かれた山岡の顔が苦しげに歪む。
それでも自身を慰める手は止まらないし、タラタラと零れている先走りは量を増している。
山岡の萎えていない中心を確認しながら、日下部はさらに強く腰を打ち付けた。
「くっ…出すぞ?」
「ん…」
コクコクと頭を上下させた山岡の仕草は、許可の意味をなすものか。
どちらにしても堪える気のない日下部は、一際強く山岡の喉を突き、髪を絡めた手に力を込めた。
「っ…」
山岡は、わずかに硬直した日下部の身体を感じた。
同時に口の中に広がった苦みに、日下部が達したのがわかる。
それに合わせるように手の動きを激しくしていた山岡は、自身の中心からも白濁した液体が溢れたのを感じた。
「う…ぁ」
ズルッと口の中から日下部が抜けていくのを感じる。
さすがに飲み込む勇気が出ずに、口の中に溜めたままの苦みをどうしようかと困惑した目を日下部に向けた。
「ぷっ…ほら」
情けない顔をしている山岡を見て笑い声を上げながら、日下部が棚の上にあったティッシュの箱を手に取った。
「吐き出していいよ」
何枚か重ねたティッシュを山岡に渡して、日下部はクスクスと笑っていた。
「泰佳もイッたんだ?」
それも拭けよ、と笑って、さらにティッシュを渡した日下部に、山岡は恥ずかしそうに顔を赤らめてそれを受け取った。
「っ…」
すでに身支度を整えた日下部が、口を拭い、手に出した自分のものを綺麗に拭き取っている山岡を眺める。
その視線を感じて、山岡は恥ずかしそうに俯いたまま、ワタワタと慌ててズボンと下着を戻していた。
「大丈夫?」
ペタンと床に座ったまま立ち上がる素振りのない山岡を、日下部が覗き込むように窺った。
「っ!だ、大丈夫ですっ…」
ただ恥ずかしいだけだ、という山岡の様子がわかって、日下部はホッとしたように微笑んだ。
「じゃぁ医局に戻れそう?」
随分と原を放置しちゃった、と笑う日下部に、山岡はハッと顔を上げた。
「そ、だ。まだ仕事…っ」
いつの間にかそのことが吹き飛んでいたのか、突然思い出したらしい山岡の顔が、カァァッとみるみるうちに真っ赤になった。
「っ、こんな職場でっ…なんてことを…」
恥ずかしい、どうしようもない、と自己嫌悪に陥っている山岡を眺めて、日下部はとてもとても綺麗に微笑んだ。
「可愛かったよ、泰佳」
「っ~」
潤んだ瞳で睨んでくる山岡の視線を楽しげに受け止めて、日下部はスッとソファから立ち上がって、山岡に手を伸ばした。
「さぁて、戻りましょうか?山岡せんせ?」
クスッと笑いながら山岡を助け立たせた日下部に、山岡がギュッと唇を噛み締めた。
「早く残りの仕事片付けないと、時間あまりないだろ」
「あ…」
「何時だって?」
「8時です…」
秘書との約束のことを言われ、慌てて立ち上がった山岡を、日下部がそっと支えた。
「まぁ今日のオペ記事は原がある程度書き上げてはいるだろうけど…」
チェックは必要だしな、と呟く日下部に、山岡はスッと表情を引き締めて頷いた。
「下手すりゃ全部書き直しもあるだろうし」
まだまだ未熟な研修医を思い浮かべながら苦笑している日下部に、山岡も曖昧に首を傾げた。
「まぁ、もともと執刀医のオレの仕事ですしね…」
勉強のためとはいえ、書かせてくれただけで十分と笑う山岡に、日下部は薄く目を細めた。
「さっきまで、白衣のままあんなにやらしく乱れていたのに…」
「は?え?」
「もうそんなパリッとした医者の顔しちゃって」
同じ格好なのに全然違う、つまらない、とぼやいている日下部に、山岡の顔がまたもカァッと赤みを帯びた。
「く、日下部先生っ!」
「なに?」
「ば、馬鹿なこと言ってないで、仕事に戻りますよっ…」
カァッと赤くなって、怒鳴り声を上げながら、スタスタとドアに向かってしまう山岡の背中を、日下部が楽しげに見つめる。
「はいはーい」
すっかり甘い雰囲気が消えてしまった山岡に笑いながら、日下部がその後を追う。
ガチャン、バタンと、乱暴に鍵を開け、乱暴にドアを開いて出て行ってしまう山岡に、日下部はにやけていく顔を必死で引き締めようとしていた。
(もうっ、絶対白衣着たままなんて、やらないんだからっ…)
最低だ、と頭を抱えながら廊下を歩く山岡を、すれ違った看護師が変なものを見るような目で見ていた。
「ふふ…」
「あっ、日下部…先生?」
山岡の後に続いて廊下を歩いてきた日下部を見止めた看護師が、ふと呼び止める。
けれどその微妙に緩んだ顔に、これまた怪訝な目を向けた。
「どうかしました?」
「え?いや、なにも」
(まずい、まずい。切り替えなきゃ)
看護師の表情にハッとした日下部が、いつもの人を魅了する綺麗な笑みを浮かべて、看護師に向き直った。
「そっちこそ、どうかしたのかな?」
ニコリと爽やかに微笑んだ日下部に、看護師の目が一瞬でハートになる。
「あ、その…大部屋の竹下さんなんですけど、痛みが酷いらしくて…」
「え~と、痛み止め、いつ出したっけ?」
「5時間前ですね」
「もう1本追加しておくか…」
オーダー出しておくね、と笑った日下部に、コクコクとすごい勢いで頷いて、看護師はポーッとした目のまま、パタパタとその場を立ち去っていった。
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