263 / 426

第263話

「どいてください、道を開けて…」 「要救助者はどちらですか?」 さらに騒然となったのは、どうやら救急車と救急隊員が到着したからのようだ。 バタバタとストレッチャーを運んできた隊員の声が聞こえ、日下部はサッと車から身体を出した。 「いち、に、さん、よん…どうします?誰から運びますっ?」 「すぐ2台目来てるから、とりあえずトリアージ」 あちこちに寝かされている怪我人を見て歩きながら、救急隊員が選別を始めようとしているのだろう。 後ろを振り返った日下部は、とにかくそちらに足を向けた。 「山岡っ」 「はぃ、30秒前に心拍再開です」 「こっちは多分、腸管損傷。意識あり、脈も触れてる。肋骨かどこかも折れてるけど」 「了解です。すみません、こちらお願いします」 日下部の声に、山岡が救急隊員を自分の元に呼んだ。 「えっと…」 「南湘記念病院の医師で山岡です。負傷者は男性、年齢不明、3分前、心肺停止状態ですぐにCPR開始…」 すぐ運べ、と訴える山岡に頷き、ストレッチャーが低く縮められ、横付けされる。 「せーの、いち、に、さんっ」 上半身と下半身をかけ声で同時に持ち上げた隊員が、ストレッチャーの上に器用に負傷者を寝かせる。 「搬送先は…」 「最寄りの、先生のところですね」 ダーッとストレッチャーが救急車の方に押されていく。 状況を聞き取りしたいのだろう。バインダーを持った隊員が、山岡の側に残っている。 「悪い、山岡残って」 車の方から山岡の側まで来た日下部が、山岡を連れて行きたそうにしている隊員をチラリと見て、先手を打った。 「日下部先生?」 「俺、あいつについて行くから」 「あ、そうですね。じゃぁ後はオレが」 残る負傷者を見ときます、ときちんと日下部の言葉の意味を察した山岡。 2番目に搬送されるのが、秘書だとわかっているからだ。 「悪い」 「いえ。運転手さんと一緒に向かうので」 日下部の見立てた症状なら、運転手も山岡たちの病院に運ぶべきだろう。大丈夫です、と微笑む山岡に頷いて、日下部はパッと秘書の元に戻った。 そこへ2台目の救急車が到着する。 「こっち!こっちです!」 日下部が、走ってきた隊員を、手を上げて大声で呼び寄せる。 それをちらりと見た後、山岡は目の前の隊員に申し訳なさそうに頭を下げた。 「さっきの方、心拍戻ってるので搬送してもらえれば大丈夫です。先に病院に。オレは運転手さんの搬送に付き添いますので」 一緒に行けない、という山岡に頷いて、隊員はパッと身を翻して駆けていった。

ともだちにシェアしよう!