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第263話
「どいてください、道を開けて…」
「要救助者はどちらですか?」
さらに騒然となったのは、どうやら救急車と救急隊員が到着したからのようだ。
バタバタとストレッチャーを運んできた隊員の声が聞こえ、日下部はサッと車から身体を出した。
「いち、に、さん、よん…どうします?誰から運びますっ?」
「すぐ2台目来てるから、とりあえずトリアージ」
あちこちに寝かされている怪我人を見て歩きながら、救急隊員が選別を始めようとしているのだろう。
後ろを振り返った日下部は、とにかくそちらに足を向けた。
「山岡っ」
「はぃ、30秒前に心拍再開です」
「こっちは多分、腸管損傷。意識あり、脈も触れてる。肋骨かどこかも折れてるけど」
「了解です。すみません、こちらお願いします」
日下部の声に、山岡が救急隊員を自分の元に呼んだ。
「えっと…」
「南湘記念病院の医師で山岡です。負傷者は男性、年齢不明、3分前、心肺停止状態ですぐにCPR開始…」
すぐ運べ、と訴える山岡に頷き、ストレッチャーが低く縮められ、横付けされる。
「せーの、いち、に、さんっ」
上半身と下半身をかけ声で同時に持ち上げた隊員が、ストレッチャーの上に器用に負傷者を寝かせる。
「搬送先は…」
「最寄りの、先生のところですね」
ダーッとストレッチャーが救急車の方に押されていく。
状況を聞き取りしたいのだろう。バインダーを持った隊員が、山岡の側に残っている。
「悪い、山岡残って」
車の方から山岡の側まで来た日下部が、山岡を連れて行きたそうにしている隊員をチラリと見て、先手を打った。
「日下部先生?」
「俺、あいつについて行くから」
「あ、そうですね。じゃぁ後はオレが」
残る負傷者を見ときます、ときちんと日下部の言葉の意味を察した山岡。
2番目に搬送されるのが、秘書だとわかっているからだ。
「悪い」
「いえ。運転手さんと一緒に向かうので」
日下部の見立てた症状なら、運転手も山岡たちの病院に運ぶべきだろう。大丈夫です、と微笑む山岡に頷いて、日下部はパッと秘書の元に戻った。
そこへ2台目の救急車が到着する。
「こっち!こっちです!」
日下部が、走ってきた隊員を、手を上げて大声で呼び寄せる。
それをちらりと見た後、山岡は目の前の隊員に申し訳なさそうに頭を下げた。
「さっきの方、心拍戻ってるので搬送してもらえれば大丈夫です。先に病院に。オレは運転手さんの搬送に付き添いますので」
一緒に行けない、という山岡に頷いて、隊員はパッと身を翻して駆けていった。
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