271 / 426

第271話

「さてと、出来た」 ふふ、と笑った日下部が、どんぶりを2つ、カウンターの上に差し出した。 「あ、ありがとうございます。並べますね」 パッとソファから立ち上がった山岡が、カウンターの方に向かい、伸ばした手でどんぶりを取る。 ダイニングテーブルに並べたそれは、とても美味しそうな牛丼だ。 「これもいい?」 はい、と次にカウンターに出てきたのは、細かく切られた野菜に白い液体がからんだもの。 「何その顔」 「いえ、これ、何ですか?サラダ?」 「え?コールスローサラダ。知らない?」 不思議そうな顔をしてコールスローをテーブルに置いた山岡に、日下部が苦笑していた。 「へぇ。美味しそうです」 「そう?簡単だから。あ、あとこれな」 トンッと最後にカウンターに出てきたのは、具たっぷりの味噌汁だった。 「定食みたいですね」 「あ~?ありあわせで考えたらこうなった。山岡、卵いる?」 「いいえ」 「そ。俺もナシ派」 ふふ、と笑いながら、日下部がマグカップを持ってキッチンを回ってくる。 最後にトンとそれをテーブルに置いた日下部が、ニコリと笑って山岡の椅子を引いた。 「あ、ありがとうございます」 相変わらずのエスコートに苦笑しながら椅子に座った山岡を、日下部がチラリと見つめた。 「ん?」 「いや…」 何だろう?と思いながらも、すでに山岡の意識は目の前の料理に向いてしまっている。 「食べるか」 ふっと笑いながら自分の席についた日下部に促され、山岡はさっそく箸を手に取った。 「いただきます」 「いただきます」 随分遅い夕食…というより、すでに夜食だが…をパクパクと食べ始めた山岡は、ようやく自分がお腹が空いていたことに気がついた。

ともだちにシェアしよう!