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第283話

「ふぅ、疲れた」 医局のドアが開き、スクラブに白衣を羽織った姿の日下部が、髪をかき上げながら入ってきた。 後ろには、同じくスクラブ姿の原の姿もあった。 山岡は、キーボードを叩いていた手を止めて、そんな2人をチラリと見た。 「お疲れ様です」 「ん、ありがとう」 「コーヒー淹れましょうか?原先生も」 ニコリと微笑んで椅子から立ち上がる山岡を見て、日下部が軽く首を傾げた。 「仕事してたんだろ?」 「はぃ。でもちょうど区切りがいいので、オレも休憩しようかと」 パタンとノートパソコンの画面を倒して微笑む山岡を見て、日下部が、じゃぁ、と言いながらソファにドサッと座った。 「あっ、コーヒーならおれ淹れますよっ」 原が遠慮からか、慌てて山岡を制止する。 「え?いいですよ、原先生も座っていてください。オペ、疲れたでしょう?」 ニコリと笑ってスタスタとバリスタが置かれたキャビネットに向かう山岡の後ろ姿を、原がオロオロと見つめた。 「あっ、その、えっと…」 「淹れてくれるっていうんだから、大人しくお願いしたら?」 原の戸惑いが分かる日下部は、クスクス笑いながらゆったりと足を組んだ。 「あ、えっと、はい…」 キョロキョロと山岡と日下部を交互に見た原が、結局ストンと頷いて、自分の椅子に腰を落とした。 少しして、すぐに山岡が、両手にカップを1つずつ持って戻ってくる。 「はぃ、原先生。砂糖多めです」 「あ、ありがとうございます」 「日下部先生はブラックです」 ニコリと笑って差し出されたカップを受け取り、日下部も微笑む。 「ありがと」 2人にカップを渡した後、今度は自分の分を取りにまたもキャビネットに戻った山岡。 その背に、ふと日下部の声がかかる。 「そうだ、山岡先生。あの人、来てたって?」 「え?」 ギクリ、と一瞬足を止めた山岡は、そっと1つ息を吸い込んで、何でもない顔をして後ろを振り返った。 「日下部さんですか?」 「うん。あいつのとこ。見舞いかな」 のんびりと首を傾げている日下部は、特に何かを疑っている様子ではなかった。 そのことにホッとしながら、山岡はキャビネットの上からカップを持ち、ゆっくりと自分のデスクに戻る。 「あぁ、いらしていましたね」 サラリと答えて、椅子に座った山岡を、日下部がチラリと見た。 「会った?」 「えーと…はぃ」 「何かされたり言われたりしてない?」 「え?いえ、特には」 山岡が隠していることとは微妙にずれた心配をしている日下部にホッとしながら、山岡はニコリと微笑んだ。 「ふぅん」 ならいいけど、なんて呟きながら、コーヒーを美味しそうに飲んでいる日下部を見てから、山岡も両手で持ったカップに口をつけた。 「さてと、ちょっと様子を見てくるか」 空になったらしいカップを持って、不意に日下部がソファから立ち上がった。 「病棟回りつつあいつの病室に行ってくる」 ポイッとカップのゴミをゴミ箱に投げ入れながら、日下部がゆっくりとドアに向かった。 「行ってらっしゃい」 「うん。原先生は適当に休憩したら、書類仕事してて」 じゃ、と言い置いて、日下部は医局を出て行った。

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