298 / 426

第298話

午後、立て続けに3件と、連続オペをこなして、日下部が、ドサッと医局のソファに腰を沈めていた。 「お疲れ様です、日下部先生」 「あぁ、山岡先生。助手ありがとな」 緊急オペ、最後の1件に前立ちに入った山岡に、日下部がゆるりと目を細めて礼を言った。 「おまえも検査だなんだで、立て込んでいたところだっただろう?」 「まぁ、はぃ」 「お疲れ」 「いえ…。えっと、それでその、お疲れのところだと思うんですけど…」 スクラブの上にふわりと白衣を羽織り、山岡がパソコンの画面にトンと触れた。 「っ、あの人の画像?」 「はぃ。見ます、よね?」 スッとパソコンを操作した山岡が、ゆっくりとソファにいる日下部を振り返る。 「あの、か、覚悟は…」 「できている」 静かに頷いた日下部に頷き返して、山岡がそっと画面の前から身体をずらした。 「ッ…こ、れは」 「はぃ」 「そうか…」 パッとソファから立ち上がり、ジーッとパソコンの画面を見つめていた日下部が、深く長い息をついた。 「そうか…」 同じ言葉を繰り返し呟いた日下部が、ゆっくりと足を引き、ドサッと再びソファに身を沈めた。 「はぁぁぁぁっ」 両手で顔を覆い、俯きながら長いため息を漏らした日下部の、その表情は分からない。 だけどただ、山岡には、その顔がホッと緩んでいるんじゃないだろうか、というような気がしていた。 「切れる、な」 「はぃ」 「おまえなら」 「はぃ」 静かに首を上下させた山岡が画面を切り替える。 「症例論文です」 「おまえが切った?」 「はぃ。こちらがシミュレーション、これがそれぞれの数値データです」 「っ…」 「予後の経過予想、リスク率、オペの、成功率」 「おまえの、全力、か…」 「はぃ」 パパッと色々なデーターを日下部に示した山岡に、日下部がゆっくりと顔を上げて、ふわりと微笑んだ。 「そうか…。よろしく、頼む」 「はぃ」 「日下部千里を…父の命を、掬い上げてくれ」 「全力で」 にこっと微笑み請け負った山岡に、日下部がとても綺麗な笑顔を見せた。 「さてと、じゃぁそろそろ出るか」 「はぃ」 「とら…終わってるかな?」 日下部の吐息にコテンと首を傾げて、山岡がゆっくりとパソコンの画面を閉じた。

ともだちにシェアしよう!