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第302話

「向こうからも、見張っとるからな」 「は…?」 「あんたらはな、おれが認めた、おれの自慢の従兄弟と親友やねん」 「っ、し、ん、ゆう…?」 偉そうに言い放つ谷野の言葉に、山岡の目がまん丸く見開かれた。 「へ?せやろ?おれはこっちでできた、かけがえのない友人やと思っとるんやけど」 「っ、は、ぃ。はぃっ」 うるりと瞳を潤ませて、コクコクと頷く山岡に、谷野がよかったーと呟いている。 「せやし、2人はな、ずーっと一緒におらんとあかんで。幸せにならな、あかん」 「おまえね…」 「もしもどちらかがどちらかを泣かせたり、不幸にさせたりしたら…おれが化けてでるからな?」 「ははっ。生霊か?」 「せや。怖いでぇ?」 「肝に銘じます」 「せやから、マジメか!」 ぎゃうっと谷野が突っ込んだところで、3人が誰からともなく目を見合わせて、クスクスと笑い出す。 「谷野先生、ありがとうございます」 「改まって、やめいや」 「ま、俺からも、とら。ありがとうな」 「せやから、照れるやん!」 やめい、と喚く谷野が、手を振り回したところに、ちょうど注文の酒が届く。 「んで、こういうところがズルいねんな、ちぃは」 お品です、とテーブルに置かれていったのは、谷野が選んだ酒と、山岡好みの甘口の2種類。 「さらっとやりおって。だからタラシやねん。モテんねん。ムカツクねん」 「どっちだよ」 「あーあ、山岡センセ、本当に、悪いオトコやで」 「くすくす、知ってます」 出来る男なんです、と笑う山岡は、サラリと日下部が注文してくれていたお酒を、早速それぞれのグラスに注ぎ始めている。 「あーもう、なんやねん。人を散々振り回してくれとって。結局、相思相愛見せつけとるだけやん」 カァッ、とオヤジくさい喚き声を上げたかと思ったら、谷野が酒の入ったグラスをひょいっと掲げる。 「そんな自慢の従兄弟と親友の前途を祝して、乾杯」 「ちょっ、勝手に。俺のまだ入ってない」 「わ、わ、わ、待ってください。日下部先生は辛口でいいんですよね?」 「そうだけど。っていうか、おまえのグラスもまだ空じゃないか」 先に日下部のグラスの中身を満たしてくれて、次は自分の、と手酌しようとしている山岡から、貸せ、とボトルを奪い取り、日下部がそれを山岡のグラスに傾ける。 「ぷはぁっ、やっぱり美味いわ、この酒。当りやな」 1人勝手にグラスの中身を呷った谷野が、満足そうに笑っている。 「この自由人…」 「ありがとうございます、日下部先生。改めて、乾杯」 クスッと笑って、山岡が谷野を睨んでいる日下部のグラスに遠慮がちに自分のグラスを触れさせる。 「まったく。まぁ、あの人と母を納得させてくれて…ありがとう。お疲れ様」 カチン、とぶつかったグラスとグラスが、とても涼やかな音を響かせた。

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