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第307話

それから、バックに、騎乗位、再び正常位と、散々に抱かれた山岡は、日下部の宣言通りに、クタクタになって、思考の1つも残っていなかった。 その疲労は翌朝まで続き、当然ながら、足腰の立たなくなった山岡は、申し訳なさそうにしながらも、午前休を取る羽目になっていた。 反して1人ツヤツヤの姿で晴れ晴れと出勤してきた日下部は、医局で早速、朝から元気な研修医に噛みつかれていた。 「ったく、なんでおれが、山岡先生の代診に入らなきゃならないんですかっ」 ガウッと叫ぶ原は、相変わらず懲りない性格のようで。 「まったく、アンタは何してるんですかっ、なにを」 「ん~?なに、って、ナニ?昨日の夜、ちょっと色々あって、山岡先生を潰しちゃったんだよね」 「……ごめんね?じゃないですよ、ごめんね?じゃ。そんな小首を傾げる仕草、おっさんがしてもキモいだけですからねっ」 このクソオーベン!と喚いている原は、相変わらずのチャレンジャーというか、無謀な馬鹿というか。 「アンタ…。おっさん…。言うね」 「っ…。だ、って…おれ、悪くないですよねっ?山岡先生来れなくて代診なんだったら、日下部先生がすればいいじゃないですか」 「だって俺も今日外来担当だもん」 「もん、じゃなくて。そんなの、倍働けばいい」 自業自得だ、とつれない研修医に、日下部の目が面白いほど細くなる。 「ふ~ん、そう?」 「な、なんですか…?」 「今度ウロから回されてくる患者さん、おまえに担当医任せて、オペまで全部させてやろうと思っていたんだけどな~」 「えっ!」 日下部の発言に、原の目がパッと輝く。 「でも、今日、俺、2人分も診察させられて、きっと昼過ぎまで掛かって昼も食べられず、午後は重要カンファで外せず緊張も強いられて、すっごく可哀想なのに、そのオーベンを助けてくれようとしない冷たい研修医に、大事な患者さんは渡せないか」 「っな…」 「残念だな。せっかくちょうどおまえの腕にも適う症状の患者さんなのに。しょうがないか~。代診、死ぬほど嫌みたいだし」 シラッとそっぽを向いて、ツーンと言い放つ日下部に、原の目がフラフラと揺れた。 「そ、それ…」 「なに?」 「受け持ちたいです」 「代診」 「っ~~!」 「だ、い、し、ん」 にこり、と微笑む日下部に、ギリギリと唇を噛み締めた原は…。 「っ~~、クソッ!やりますっ!やらせていただきますっ!」 心底悔し気に悩み抜いた挙句、ガバッと頭を下げて降伏宣言をした。 「クスクス、ちょろい」 「なにかっ?!」 「ん~?別に」 「ただしっ、あまりに厄介な症状は、おれじゃ捌けませんからね!」 「あぁ、いいよ、分かってる。予約で複雑なの分かっている患者は、初めから俺が診るから。それと新患で分からないのは、俺に回してくれればいい」 隣にいるから、と微笑む日下部に、原がウッと言葉に詰まっている。 『クソオーベン。意地悪するんだったら、とことんまでしてくれれば憎めるのに…』 「ん?何か言った?」 「っ、別にっ!アンタは、性悪だってことですっ!」 「また、言うね。喧嘩売ってるの?」 難しい患者、引き受けないよ?と笑う日下部に、原がニッと口角を持ち上げた。 「そう言って、アンタは患者のことを見捨てませんもん。おれだって分かってきているんですからね」 んべー、と舌を出す無謀な研修医に、日下部のニッコリとした壮絶に綺麗な笑みが向けられた。 「そう。じゃぁ、きみに朗報」 「へっ…?」 「今夜は寝られない」 よかったね、と笑う日下部が、ドサッとファイルと書類の束を原のデスクの上に置いた。 「これ全部、今日中に処理しておいてね」 にっこり。嘘くささ全開の日下部の笑顔に、原の悲痛な叫びが医局中に響き渡った。 「このクソオーベン!代診やらせる上に、この仕打ち。鬼、悪魔、人でなし~!」 「なになに?追加が欲しいって?俺は、きみのスキルアップのために、協力してあげている、と~っても部下思いの上司なんだよ」 「パワハラだーっ」 うぁぁん、と喚く原にニコリと笑って、「じゃぁ外来行こうか」と爽やかに白衣を翻した日下部が、悠然と医局を出ていった。

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